世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★中南米? ラテンアメリカ? 最も適切な呼び方は【「歴史総合」教科書の検討17】

 

◆メキシコ以南の地域をどう呼ぶのが適切なのか、考えてみます。

 

◆東京書籍の「詳解歴史総合」には「地域の歴史」というページがあり、6地域についてそれぞれ1ページ分の解説がなされています。「中南米の多様性」と題されたページの最初に、たいへん重要な記述があります。

 

 「中南米の定義は諸説あるが、おおむね中部アメリカ(メキシコとそれより南の中央アメリカ諸国、および西インド諸島から成るカリブ地域をさす)と南米の総称といってよい。ラテンアメリカと同義といってもよいが、旧スペイン領、旧ポルトガル領から成る厳密な意味でのラテンアメリカだけでなく、(旧)イギリス領、(旧)フランス領、(旧)オランダ領、アメリカ領もふくまれる。」[*1]

 

[*1]他社の教科書には見られない親切な記述です。ただ、問題点もあります。

 ■「西インド諸島」という語には、注記が必要でしょう。ヨーロッパ人が「東インド」と対にして使ってきましたが、現在では不適切な呼び方です。

 ■少し細かいことになりますが、メキシコは地形的には北アメリカ大陸に属しています。カナダ、アメリカ合衆国、メキシコの貿易協定の名称が「北米自由貿易協定」となっているのは、そのためだと思われます。したがって、厳密に言えば、メキシコ以南を中南米とは呼べないことになります。

 ■同社の「新選歴史総合」では「ラテンアメリカ」という語を使い、上記のような記述はありません。著作関係者も編集協力者も、ほとんど変わらないのですが。[*2]

 

[*2]地図について述べておきます。

 ■「新選歴史総合」の「ラテンアメリカ」のページではカリブ海地域には触れていません。ただ、「ハイチ革命」というコラムを設けているからでしょうか、巻末には「カリブ地域」というタイトルで拡大した地図を載せています。

 ■なお、実教出版の2冊の教科書は、巻末に「中央アメリカ」というタイトルで拡大した地図(カリブ海地域を含んでいます)を載せています。

 ■また、第一学習社の「新歴史総合」は、巻末にやはり「中央アメリカ」というタイトルで拡大した地図(カリブ海地域を含んでいます)を載せています。しかし、杜撰と言うほかないのですが、カリブ海という文字は見当たりません。

 

◆世界史では長年「ラテンアメリカ諸国の独立」などと使ってきました。各社の「歴史総合」教科書も、この使い方を踏襲しています。しかし「詳解歴史総合」の解説にもあるように、最初の独立国ハイチを含め、カリブ海地域には「ラテンアメリカ」(ラテン民族であるスペイン・ポルトガルの影響を強く受けたアメリカ)とは呼べない島々(大アンティル諸島小アンティル諸島)が多いのです。

 

◆10年ほど前、イギリスのBBCのサイトに❝ Latin America & Caribbean ❞と記されているのを見つけました。イギリス領だったジャマイカなどからの移住者が多いためでしょう、カリブ海地域をしっかり視野に入れていました。

 

◆このように考えてくると、BBCにならって、日本語ではラテンアメリカカリブ海地域」と呼ぶのが最も適切ではないかと思われます。「ラテンアメリカとカリブ地域」でもいいのすが、島々をイメージするためには「カリブ海地域」のほうがベターかと思います。

 

◆英語の指導助手としてバルバドス(イギリスから独立した、カリブ海の島国です)から来ていた、アフリカ系の女性とカタコトの英語で話したことを思い出します。彼女は「私はカリビアン(カリブ人)よ」と言っていました。カリブ海地域の人びとのアイデンティティのありかをよく表していたと思います。