世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「探究」教科書における福島第一原発事故の記述

 

★2011年3月11日に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故は、歴史上の大災害で、いまだ「収束」などしていません。2万人近くの人びとが避難したままですし、廃炉に向けた作業は難航しています。融け落ちた核燃料の状態さえ、正確に把握できていません。30年は続く「処理水」の海洋放出、使用済み核燃料の取り出し、除染で出た膨大な汚染土の保管など、困難な課題が山積しています。

 

★この大事故を新課程の「世界史探究」・「日本史探究」の教科書はどのように記述しているのでしょうか。調べてみました。

 

【「世界史探究」では】

 

◆『新世界史』(山川出版社)、『世界史探究』(東京書籍)、『世界史探究』(実教出版)、『新詳世界史探究』(帝国書院)とも、1行程度の記述です。ただ帝国書院版では、映画「シン・ゴジラ」にも関連して記述があります。帝国書院実教出版は事故の写真も載せています。

 

◆やや詳しいのは『詳説世界史』(写真の掲載もあります、山川出版社)と実教出版で、次のような記述があります。

 

 「東日本大震災による津波の影響で、福島第1原子力発電所では炉心溶融をともなう大規模な事故が発生した。さらに放射能もれなどの被害によって、周辺地域での生活は困難なものとなった。」[注の記述](山川『詳説世界史』)

 

 「福島第一原子力発電所が爆発事故をおこし、国のエネルギー政策が鋭く問われる事態となった。」[本文]「この事故に起因する放射能汚染によって、住んでいたところを離れなければならなくなり、いまだに元の住まいにもどれない人も多い。」[注](実教)

 

【「日本史探究」では】

 

◆『日本史探究』(実教出版)、『日本史探究』(東京書籍)、『高等学校日本史探究』(第一学習社)、『高等学校日本史探究』(清水書院)、『詳説日本史』(山川出版社)を調べてみました。

 

◆最もていねいな記述は、第一学習社版だと思います。(事故の写真は、阪神・淡路大震災の被害の様子と並べて載せています。)

 

 「2011(平成23)年3月、三陸沖を震源地とするマグニチュード9.0の大地震が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部を中心に甚大な被害をもたらした(東日本大震災)。津波により全電源を喪失した福島第一原子力発電所では、メルトダウン炉心溶融)がおこって、大量の放射性物質が放出される大事故が発生し、原子力発電への国民の信頼は大きく揺らいだ。災害の多発により被災者のケアが課題となる一方、ボランティアによる積極的な救援活動がみられるようになり、また、災害から文化財を救出する試みもおこなわれている。」[本文]

 

◆また、東京書籍版は現在進行形の出来事であることを明記しています。(写真は津波の被害と原発事故の2枚を載せています。)

 

 「2011(平成23)年3月11日、東北沖の太平洋を震源とする、日本周辺でおきた地震としては観測史上最大のマグニチュード9.0の巨大地震が発生した。はげしい揺れにつづいて巨大な津波が東北から関東の太平洋岸をおそい、約2万人が犠牲になった。東京電力福島第一原子力発電所では、大量の放射性物質を放出する深刻な事故が発生し、多数の住民が避難を余儀なくされた(東日本大震災)。被災地の復興と原発の事故処理のための努力は、現在もつづいている。」[本文]

 

◆採択数が多いと思われる『詳説日本史』(山川)には、少々がっかりさせられました。東日本大震災のボランティア活動や文化財レスキュー事業について述べられているものの、福島第一原子力発電所事故に関する記述はごく簡単なものでした。写真の掲載もありません。「歴史教科書の山川」と自他ともに認めてきたのですから、もっと鋭い問題意識を持って編集してほしかったと思います。