世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★姫岡とし子『ジェンダー史10講』について

◆今年2月に出版された、姫岡とし子の『ジェンダー史10講』(岩波新書)は、第1講から第4講までで<女性史からジェンダー史へ>という流れを概観し、第5講以降は6つのテーマを設定してジェンダー史を叙述しています。 ◆第1講から第10講までのタイトルは…

★シュルレアリスム100年【シュルレアリスムと女性】

◆今年はアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』発表(1924年)から100年という年だそうです。 ◆ダリやマグリットの絵を少し見てきただけですのであまり大きなことは言えませんが、私はシュルレアリスム(超現実主義)を敬遠気味に過ごしてきました。…

★大正15(1926)年、家父長制への痛烈な一撃[小説『山梔』]

◆久しぶりに小説を読みました。新聞の新刊案内を見て、作者も作品も初めて知ったのに、なぜか、とても気になっていた、野溝七生子(のみぞなおこ)の『山梔(くちなし)』です。大正15(1926)年に刊行された小説で、以前は講談社文芸文庫から出ていたとのこ…

▲千年前の日本・世界の食生活

★明けましておめでとうございます。 ◆今年(2024年)のNHK大河ドラマにちなんで、紫式部や『源氏物語』に関する本の出版が、去年の後半から盛んになりました。 ◆本ブログも、今年は、紫式部が『源氏物語』を書いた千年前(11世紀初め、日本は平安時代中期)…

★19世紀半ばの航路・鉄道③(1869年・米大陸横断鉄道への3つの視点)

◆最初のアメリカ大陸横断鉄道が、1869年に開通しました。この出来事を3つの視点から考えてみます。なお、「最初の」と述べたのは、1883年、合衆国の北部と南部に新たな大陸横断鉄道ができたからです。 ◆また、1869年にはスエズ運河も開通しました。1869年は…

★19世紀半ばの航路・鉄道②(1860年・遣米使節団)

◆江戸幕府は、日米修好通商条約(1858年締結)の批准書交換のため、万延元年(1860年)、アメリカに使節団を派遣しました。 ◆新見豊前守正興を正使とする使節団の一行は77名(幕府の役人、従者、調理員)でした。アメリカの軍艦ポーハタン号(ペリーの2度目…

★19世紀半ばの航路・鉄道⓵(1853年・ペリー艦隊)

★19世紀は、蒸気船・蒸気機関車の発明と爆発的な普及により、海上でも陸上でも交通に大革命が起きた時代でした。その一端を、3回にわたって考えてみます。 ◆1853年7月(陽暦)、ペリーに率いられた、アメリカの東インド艦隊4隻は、上海から琉球・小笠原諸…

▲高校の歴史教育(「歴史総合」~「世界史探究」・「日本史探究」)が早くもぶつかっている困難【追記10/9】

◆昨年度から実施されている高校の新教育課程では、教科「地理歴史」の場合、1年生で必修の「歴史総合」・「地理総合」を学び、2・3年生で「世界史探究」・「日本史探究」・「地理探究」から1科目選択して学ぶという科目構成になっています。 ◆授業が始ま…

★「レコンキスタ( Reconquista )」から考える世界史の授業

◆イベリア半島におけるキリスト教諸国のレコンキスタ( Reconquista 、8世紀~1492年)は長らく「国土回復運動」と訳されてきましたが、「世界史探究」ではようやく「再征服」あるいは「再征服運動」、「国土再征服運動」と記す教科書が増えました。山川の…

★東インド会社は重要ですが、そもそも「東インド」とは?

●「西インド諸島」という呼称については、ほとんどの「世界史探究」教科書が、「自分たちはインディアスに到達した」というコロンブスの誤解から生まれた語と説明しています。 ●一方、「東インド」については、ほとんどの教科書に説明がありません。イギリス…

★インディオ、インディアンという語

今の高校生の場合(エリート校は別でしょうが)、インディオやインディアンという語については、授業でていねいな説明が必要です。 ◆次の文章は山川『詳説世界史』のものですが、このままだと不十分だと思われます。 『コロンブスの船団は1492年にカリブ海の…

★トルキスタンの成立

◆トルコ系民族の西方移動(西進)や東西トルキスタンの成立は、生徒たちにとっては理解しづらい部分だと思います。したがって高校の世界史の教科書も、ある程度ていねいな記述が必要だと思ってきました。 ◆ていねいな記述がなされているのは、東京書籍の『世…

★小川幸司『世界史とは何か』への危惧[最終更新 8/24]

※何度も書き直しましたので、少し前に読んだ方には、ご迷惑をおかけしたと思います。まだ書き足りないことがあるような気はしていますが、加除・訂正を終わりにします。[8/24] ◆小川幸司『世界史とは何か』(岩波新書、2023)を読んでみました。 ◆世界史教…

▼第一学習社の教科書・資料集の地図に「カリブ海」が…

▼第一学習社の教科書・資料集の巻末(または巻頭)地図「中央アメリカ」に、驚くべきことですが、「カリブ海」という文字がありません。 ▼直接確かめたのは、「歴史総合」の教科書・資料集と「グローバルワイド最新世界史図表」ですが、同じ地図が使いまわさ…

★国際都市アヴィニョン(2)

<歴史学では②> アヴィニョンについて、ヨーロッパ美術史研究の水野千依は次のように述べています。 『1312年以降、長きにわたりこの地に暮らしたイタリアの詩人フランチェスコ・ペトラルカは、(中略)アヴィニョン教皇庁の倫理的堕落に嫌悪を募らせていた…

★国際都市アヴィニョン(1)

★次回にかけて、中世ヨーロッパ後期のアヴィニョンとそこに置かれた教皇庁について考えてみます。 <アヴィニョンに教皇庁が置かれた時代> ◆教皇庁がアヴィニョンに置かれた期間は、決して短いものではありませんでした。 ⅰ)アヴィニョン教皇庁 1309~77 ⅱ…

★「世界史探究」教科書の検討18[「琉球処分」は注で述べればいい?]

★今回はいわゆる「琉球処分」(明治政府による沖縄県設置)について考えてみます。 ▼山川出版社の2冊の「世界史探究」教科書(『詳説世界史』と『新世界史』)は、いずれも「琉球処分」については本文でごく簡単に触れ、注で補足しています。多分「世界史の…

★「世界史探究」教科書の検討17[ハワイ王国最後の王リリウオカラニ]

☆アメリカ合衆国によるハワイ併合(1898)は、「列強によるオセアニア支配」の最終段階に当たる、重要な出来事でした。リリウオカラニ女王は、ハワイ王国最後の王となってしまいました(在位1891~93)。各社の教科書ではどのように取り上げているでしょうか…

★「世界史探究」教科書の検討16[後期印象派?]

◆美術史家の高階秀爾さんも10年ぐらい前に述べておられましたが、美術史ではゴッホ、ゴーギャン、セザンヌを、後期印象派ではなくポスト印象派と呼ぶようになっています。この3人の画家を「印象派の影響を受けているけれども、それぞれ独自の画境に進んでい…

☆「探究」教科書の表紙デザイン(シンプルな山川『詳説』、素敵な東書『日本史探究』)

今回は少し視点を変えて、「世界史探究」・「日本史探究」教科書の表紙のデザインについて書いてみます。もちろん、内容より表紙のデザインを重視するわけではありません。 ◆山川出版社の『詳説世界史』は、旧課程版よりもやや鮮やかなスカイブルーになりま…

★「世界史探究」教科書の検討15[フランス革命の複合性と功罪]

◆フランス革命(1789~99)の捉え方は、大きく変わってきました。半世紀前は、自由・平等を掲げた、典型的なブルジョワ革命(市民革命)とされていました。その後(30年ぐらい前からでしょうか)革命の心性や政治文化に焦点が当てられ、やがて国民国家の創生…

◇『文藝春秋』の特集「代表的日本人100人」に思う

◆『文藝春秋』2023年8月号は、「代表的日本人100人」という特集を組んでいます。私としては珍しく、買ってみました。 ◆識者24人が「代表的日本人」を5人ずつ選んでいます(ある程度恣意的な選び方になるのはやむを得ないのでしょう)。編集部は、識者24人…

★「世界史探究」教科書の検討14[グージュ「女性の権利宣言」](ジェンダーの視点に欠ける山川)

◇ジェンダーをどう取り上げるかは、歴史学の中心的課題の一つとなっています。「ジェンダー史学」という語も使われるようになりました。 ◇今回の「フランス革命と女性」というテーマは、日本では20世紀後半から大きな課題となってきました。近代における家族…

★「世界史探究」教科書の検討13[アメリカ独立革命の見方(山川・詳説など)]

◆独立戦争の開始(1775)から合衆国憲法の制定(1787)あるいは憲法修正(1791)までの一連の出来事を「アメリカ独立革命」と呼ぶことは、かなり一般化しています。この用語を最も積極的に使用しているのは、実教の教科書です。 「この一連のアメリカの独立…

★「世界史探究」教科書の検討12[17世紀のオランダ(山川・新の充実した叙述、帝国の驚くべき表記)]

◇今まで3冊の教科書(山川出版社の『詳説世界史』、東京書籍の『世界史探究』、実教出版の『世界史探究』)を比較・検討してきましたが、今回から山川出版社の『新世界史』と帝国書院の『新詳世界史探究』も検討対象に加えます(山川・新、帝国と略記)。 …

★「世界史探究」教科書の検討11[奴隷貿易(充実の実教、粗略な山川・詳説には誤りも)]、追記[*3・4]

★大西洋三角貿易をどう取り上げるかは、世界史教科書の良し悪しを判断する際の「試験紙」みたいなものだと思ってきました。近世から近代にかけて行われた大西洋奴隷貿易と南北アメリカ・カリブ海地域の奴隷制は、二度の世界大戦やユダヤ人虐殺などと並んで、…

★「世界史探究」教科書の検討10[南宋の記述の充実を]

◆南宋(1127~1276)についての記述は、従来から簡単でした。中国史では、六朝時代は別ですが、統一王朝の時代が重視され、分裂の時代は軽視される傾向があったからだと思います。新しい「探究」の教科書でもほぼ同じ扱いです。また、南宋の政治・外交、経済…

★「世界史探究」教科書の検討9[17世紀イギリスの革命(刷新された山川・詳説)]

◆旧課程の山川「詳説」(世界史B)には、17世紀イギリスの革命について奇妙な記述がありました。内戦~共和政(いわゆるピューリタン革命)期のみ「イギリス革命」と呼んでいたのです。 ◆今年度の高校2年生から使用されている「詳説」の記述は、とてもよく…

★「世界史探究」教科書の検討8[宗教改革(刷新された山川・詳説)]

◆山川出版社の『詳説世界史』には、かなり辛口の評価をしてきましたが、宗教改革のページは旧課程の教科書から大幅に刷新され、充実した内容になっています。 ◆私は、「世界史の扉をあけると」でも述べたように、宗教改革期のイコノクラスム(聖像破壊運動)…

★「世界史探究」教科書の検討7[中国における道教の成立]

◇山川出版社の「詳説世界史」、東京書籍の「世界史探究」、実教出版の「世界史探究」を比較・検討しています。 ◆今回は、中国の道教を取り上げます。「今までの中国史は儒教と仏教に偏っていたのではないか」という反省が、私自身にあるためです。道教の成立…