◆今年2月に出版された、姫岡とし子の『ジェンダー史10講』(岩波新書)は、第1講から第4講までで<女性史からジェンダー史へ>という流れを概観し、第5講以降は6つのテーマを設定してジェンダー史を叙述しています。
◆第1講から第10講までのタイトルは次の通りです。
第1講 女性史研究の始動
第2講 第二波フェミニズムと新しい女性史
第3講 ジェンダー史
第4講 歴史叙述とジェンダー
第5講 家族を歴史化する
第6講 近代社会の編成基盤としてのジェンダー
第7講 身体
第8講 福祉
第9講 労働
第10講 植民地・戦争・レイシズム
◆書名や目次だけを見て誤解する人がいるかも知れませんが、人々を煽るような叙述ではありません。<身体>や<植民地・戦争・レイシズム>などはとりわけ先鋭な内容ですが、感情的な方向には流れず、冷静な筆致でまとめていると思います。
◆第4講「歴史叙述とジェンダー」では高校の歴史教育にも言及されていますが、採択数の多い山川出版社の教科書について若干述べておきます。
① 本ブログの<「歴史総合」教科書の検討>でも述べたように、山川出版社の3種類の『歴史総合』は、ジェンダーの視点からはまったく評価できない教科書です。ジェンダーという語も、フェミニズムという語も、使われていません。そのような視点そのものがないのです。
② 『詳説世界史』(世界史探究)では、巻末でジェンダーとフェミニズムを取り上げています。多分、ジェンダーの視点が欠落していることに気づき、編集の最後の段階で文章を追加したのでしょう。古代から現代までをジェンダーの視点から叙述しようとする姿勢は感じられません。それは、オランプ・ド・グージュについての記述がないことに、よく表れていました。
◆姫岡は、今後の歴史研究のあり方について、次のように述べています。
「(歴史学には)限られた分野だけでジェンダーを孤立して扱うのではなく、あらゆる歴史領域にジェンダー視点を導入して歴史を読み解き、歴史全体の書き換えを目指していくことが求められている。またジェンダー史にも、ジェンダー以外の歴史の動きとの連動を強め、もっと歴史全体に開いていくような形の歴史叙述や、ジェンダーの視点を導入した歴史像の変化を具体的に示していく必要がある。」(70ページ)
◆姫岡自身がことわっているように、「宗教とジェンダー」(きわめて重要なテーマです)については述べられていませんが、コンパクトながら、ジェンダー史についてのすぐれた入門書になっていると思います。