世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

■「歴史総合」資料集の検討【帝国書院版】

 

帝国書院の「明解歴史総合図説シンフォニア」は、文字や図版が大きく、わかりやすい内容になっています。

 

◆しかし、急いで編集したのか、いくつか残念な点がありました。

 

 ①巻頭の「地域の基礎知識」は学習に役立つと思います。ただ、東アジアに中央ユーラシアまで含めてしまいました。また南北アメリカのところでは、イギリス・フランスも進出したカリブ海地域に触れてほしかったと思います。サトウキビ・プランテーションが発達したジャマイカサンドマングを理解するためです。

 

 ②「世界とつながる江戸幕府」では、「四つの窓口」を2ページにわたって取り上げ、近年の「鎖国再考」の見方を反映させていました。ところが別のページでは、大きく「開国」という語を使っていますので、やや整合性に欠ける結果となってしまいました(「開国」はもちろん「鎖国」に対応した語です)。なかなか難しい問題ですが、幕末の歴史では「開国」という語を使わざるを得ませんので、「四つの窓口」をあまり強調し過ぎないほうがいいように思います。

 

 ③「イギリスの主権国家の形成」では、古い見方が踏襲されていました。半世紀前と同じく「ピューリタン革命」を大きく取り上げるのは、困ったことです。イギリスでは「ピューリタン革命」という用語を使っていません。「内戦」という位置づけです。新しい「世界史探究」の教科書・資料集でどう扱われているかわかりませんが、「内戦から立憲君主政へ(国教会体制の確立)」という見方で17世紀イギリス史を構成するべきでした。

 

 ④「歴史総合」ですので、ナポレオンに2ページを割くのは行き過ぎです。(英雄史観の名残りでしょうか?)また、幕末から明治維新にかけて6ページを割いています。非常に大事な歴史ではありますが、「歴史総合」全体から見るとやはり行き過ぎでしょう。もう少し整理することができると思います。

 

 ⑤「シンフォニア」の最も大きな欠点だと思われますが、驚くべきことに関東大震災にまったく触れていませんでした。死者の多さや朝鮮人虐殺の問題を考えると、日本の近代史で関東大震災をカットすることなどあり得ないと思います。(来年は関東大震災から100年です。)

 

 ⑥戦後史は、残念ながら、駆け足になってしまったと思います。

 

◆細かいことですが、アジア・太平洋戦争のページに、日本軍の南部仏印進駐の写真と解説を載せていたのは適切です。北部仏印進駐も南部仏印進駐も、きわめて重要ですので。

 

◆なお、各ページに載っている簡単な問題の解答を巻末につけていました。とても親切で、高校生は助かるでしょう。