世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★新型コロナ・アニマ・阿吽(あうん)

 

新型コロナウイルスは、変異を繰り返しながら、感染発生から4年目に入っても猛威をふるっています。この3年間で、世界では700万人もの人がこの世を去っています。

 

◆日本でも感染者数・死者数とも急増していて、死者は6万3千人を越えました。しかし、政府も専門家の分科会も「基本的な安全対策をしっかりと」と言うばかりで、無策に近い状態です。「ウィズ・コロナ」とは、経済・社会活動を維持しながら、感染と感染による死を受け入れることなのでしょうか? 医療現場の困難を思いながら、呆然としています。

 

◆あらためて言うまでもありませんが、新型コロナウイルス感染症はヒトの「呼吸」を通して広がっています。ウイルスは、根源的な生命活動である「呼吸」を利用して増殖しているのです。もしかしたら、ヒトの「呼吸」は、植物の「呼吸」よりも脆さをかかえているのかも知れません。

 

古代ローマの人びとの言葉だったラテン語に anima(アニマ)という語があります。英語の animal や animation の語源となった語です。もともとは「息」「呼吸」という意味の語ですが、「魂」という意味もあります。

 

◆この3年、感染の不安の中で時々思っていたのは、 anima という語のことでした。「息・呼吸」が「魂」につながっていることの不思議さを思っていました。そのつながりは、深呼吸で気持ちを落ち着かせるというようなありふれた体験で知っていたはずなのですが、あらためて「息・呼吸」と「魂」について考えさせられてきました。「息・呼吸」であり「魂」である anima は、生きていることそのものを表している語なのだと思います。

 

◆「ウィズ・コロナ」とおびただしい情報の中で忘れられていく、「呼吸」していた6万3千の「魂」。

 

◆仏教にも、やはり「息・呼吸」を表す語があります。「阿吽(あうん)」です。「阿吽(あうん)」はもともと呼気と吸気を意味していたそうです(そこから「阿吽の呼吸」という語も生まれました)。ところが、それだけではありません。根本的には、「阿吽」は「万物の始原と終極を象徴するものとみなされた」[*1]というのですから、驚きます。古代インドの人たちも、anima という語を使った人たちと同じように、「息・呼吸」の根源性に着目していたのでしょう。

 

◆この地球に現れ増え続けてきたヒトという生きもの(ホモ・サピエンス[*2])は、「息・呼吸」という根源的なところに脆さをかかえた生体なのだということを、新型コロナウイルスは私たちに告げ知らせているのだと思います。

 

[*1]中村元ほか編『仏教辞典』[1989、岩波書店

[*2]18世紀の啓蒙の時代以来、ヒトは「 homo sapiens(知恵ある人)」と言われてきました。博物学者リンネが名づけました。まだ考えが深まっていませんが、この言葉には(啓蒙主義には)「人間は最強の生き物で、地球を支配することは当然」という考え方が含まれていたと思います。そのような思い上がりが新型コロナウイルスや気候変動などによって揺らいでいるのが、今の状況だと思います。