世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼「戦勝記念日」の空疎なプーチン演説、ロシアに広がるか厭戦感情[2022/5/9]

 

▼注目されていたプーチン演説ですが、従来と同じく、ウクライナ侵攻が「唯一の正しい決断だった」と強弁していました。「キーウ占領」も「ドンバス地方の完全制圧」もできない現状を何とか糊塗することに終始したように感じられます。

 

プーチンは、現在のウクライナ政権とナチス・ドイツを重ね合わせるという、まったく無理なロジックに、相変わらず頼っています。独ソ戦ではアメリカがソ連に武器援助していたのですが、この歴史的事実は全く無視されています。第二次世界大戦におけるナチス・ドイツに対する勝利は、連合国(米・西欧+ソ連)の勝利にほかなりませんでした。

 

ウクライナの人びとは、街を、病院を、学校を、住宅を破壊し、市民を虐殺するロシア軍とプーチンこそ「ネオナチ」だと感じていることでしょう。「第二次世界大戦戦勝記念日」は、この「ネオナチ」に絶対勝利するという決意を、ウクライナの人びとに固めさせる日になったと思います。

 

▼すでにロシア軍は1万5千人以上の(2万人近いかも知れません)戦死者を出しているようです。また信じがたい数字ですが、今年1月~3月にロシアを出国した人は300万人以上という報道もあります。経済制裁の影響は、国民生活だけでなく軍事面にも広がっている(戦車などの部品調達ができない)と言われています。ロシア政府がいくらプロパガンダを重ねても、ロシアが陥っている現実を国民の目から覆い隠すことは難しいのではないかと思います。

 

ウクライナ軍の反転攻勢がすでに始まっているようですし、欧米の軍事援助の効果はこれから顕著になってくると言われています。今後ロシアでは、「特別軍事作戦」への疑念が、兵士にも一般市民にも徐々に広がっていくのではないでしょうか。ロシアの人びとが本当に「ウクライナは兄弟国」と考えているなら、しだいに厭戦感情が広がるのではないでしょうか(プーチンの要請にもかかわらず「兄弟国ベラルーシ」は参戦していません)。

 

第一次世界大戦時の帝政ロシア軍の戦意喪失について触れた文章を思い出しています。

 

 「一昨日は一人、昨日は一グループ、近くの部隊から脱走兵が出たらしい。遠くの前線では出撃命令を拒否した兵士もいる。そんな噂話が、はじめは誰にも聞かれぬよう小声で、しかしやがては挨拶のように、誰彼となく大声で交わされるようになる。君が脱走するときは教えてくれよ。僕も一緒に逃げるから。東部戦線に溜めこまれていた厭戦感情は、いまや誰の目も誤魔化せないほど明らかになる。」

 【「現代思想」2017年10月号(ロシア革命100年特集号、青土社)の編集後記の一節】