世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討1【盛りだくさんの内容を「考える」のは大変】

 

◆今年度から実施されている、高校の新科目「歴史総合」には、各方面から期待が集まっています。ただ、高校の現場からというよりは、大学の歴史研究者からの期待のほうが大きいようです。

 

◆次の5冊の教科書を比較しながら、何回かにわたって「歴史総合」のありかたを検討してみたいと思います。

 

 ●「歴史総合」(歴総707、山川出版社

 ●「現代の歴史総合」(歴総708、山川出版社

 ●「詳述歴史総合」(歴総703、実教出版

 ●「歴史総合」(歴総704、実教出版

 ●「詳解歴史総合」(歴総702、東京書籍)

 

 ※第一学習社の「新歴史総合」(歴総711)については、後日追加する予定です。

 

◆各社の教科書とも、「歴史は暗記」という今までの通念からの脱皮を図り、「考える歴史」を前面に出しています。この点では、東京書籍の「詳解歴史総合」は英断を下したと思います。重要な語・人名を太字にすることをやめたのです。執筆者たちは「従来通り太字を遣えば結局重要な語・人名の暗記に走ってしまうだろう、本文を読解してほしい」と考えたのだと思います。山川の「歴史総合」は太字を使っていますが、本文の読解を促す問いを各ページに設けています。

 

◆各社の教科書とも、「考える歴史」のためにたくさんの史料の提示や問いかけを行っていて(山川の「現代の歴史総合」が典型的です)、工夫の跡がうかがわれます。ただ教科書執筆者は、次のことを忘れているのではないかと思います。

 

 ① 「歴史総合」は高校1年生が学ぶ科目として設定されていること。

 ② ほとんどの場合、2単位で履修すること。

 

◆各社とも問題意識に満ちた教科書ですばらしいのですが、執筆者の方々は、高校1年生のレディネスを十分に考えたでしょうか? 今まで大学生にも問いかけたことのないような問いもちりばめられているような気がします。また、これらの問いをすべて授業で取り上げることは不可能でしょう。文部科学省が標準2単位という設定にしているからです。

 

◆教科書の内容・分量と2単位という設定の関わりについては、簡単に考えることができます。たとえば、山川の「歴史総合」は236ページ、実教の「詳述歴史総合」は239ページ、東書の「詳解歴史総合」は217ページです。実際の授業時数は<50分×60数単位時間>ですから(65単位時間確保できる高校は少ないでしょう)、生徒たちが考え、話し合う時間を一定程度とれば、50分の授業で4~5ページは進む必要があることになります。生徒たちにとっても、担当教員にとっても、かなりハードな授業となってしまうでしょう。

 

◆これでは、従来の歴史の授業とあまり変わらなくなってしまいます。「考える歴史」が後景に退くことを避けるためには、たとえば「19世紀から20世紀前半を集中して学ぶ」というように、教科書全体を学ぶことは断念することになるでしょう。しかし、「歴史総合」は共通テストの出題科目になっていますので、ある時代・時期を集中して学ぶことが適切かどうかということになってきます。

 

◆このように考えてくると、実際に「歴史総合」の授業を担当する教員の苦労は並大抵ではないことがわかります。文部科学省も、大学の歴史研究者も、大学入試センターも、高校教員に過大な負担を強いないようお願いしたいと思います。