世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討15(まとめ)【科目の開始から半年、過度な期待は…】

 

◆高校1年生で履修する新科目「歴史総合」の授業が始まって、半年になろうとしています。私自身は高校の現場を離れていますので詳しくはわかりませんが、各高校では試行錯誤が続いているようです。

 

◆従来型の歴史教科書に一番近い山川の「歴史総合」を使用している場合は、試行錯誤が少ないかも知れません。定期考査問題も作成しやすいでしょう。しかし、内容が豊富ですし、戦後史にも3分の1の分量を割いていますので、「問い、調べ、考える授業」はあまり展開できないだろうと思います。また、グージュ、平塚らいてう慰安婦などに触れていない教科書です。

 

◆一方、「問い、調べ、考える」ことを目指した教科書(数は多いです)を使用している場合は、史料や問いがあまりに多すぎて、授業ではその多くを割愛せざるをえないと思います。また定期考査問題の作成では、部分的に史料問題や論述問題を入れたとしても、結局は従来通り太文字の用語・人名を重視せざるをえなくなっているかも知れません。

 

◆「問い、調べ、考える」ことを目指した教科書を執筆した歴史研究者たちは、高校1年生が週2時間(50分×2)で学ぶ科目であることを忘れて、たくさんの史料や問いを用意してしまったようです。多分、大学1・2年生の授業でも、これほどたくさんの史料や問いを用意したことはなかったのではないでしょうか。「歴史総合」に期待をかけるのは当然かと思いますが、同時に自分の持ち場である大学の授業の改革をお願いしたいと思います。

 

◆東書の「詳解歴史総合」を採用している高校は少ないと思います。でも、重要な教科書です。本文中の太文字をなくしていますし、内容も高度ですから、教えるほうは大変ですが、工夫次第では充実した授業が展開できると思います。定期考査問題も、作成しがいがあるでしょう。同じ東書の「新選歴史総合」とともに、慰安婦をきちんと取り上げた教科書でもあります(「さくいん」にも慰安婦という語を載せています)。

 

◆実教の「詳述歴史総合」は、伊藤野枝にまで触れるなど、鋭い見方が特徴だと思います。ところが、慰安婦については記述がありません。昭和天皇の戦争責任をも考えさせながら、なぜか慰安婦はパスしてしまったのです。同じ実教の「歴史総合」は、どういう意図があったのか、沖縄戦でのみ慰安所慰安婦について述べています。誤解をまねくかも知れません。

 

◆わかりやすさを考えたのだと思いますが、多くの教科書が風刺画を載せています。風刺画を多用している教科書もあります。生徒たちが「出来事を風刺的に見ることが歴史を学ぶこと」だと勘違いしてしまうのではないか、と心配になるほどです。風刺画は重要な史料ではありますが、限定的に使用してほしいものです。

 

第一学習社の「新歴史総合」の表紙には、「過去との対話、つなぐ未来」と記されていました。E.H.カーの有名なことばを踏まえたものでしょう。不十分なところはあるものの、「新歴史総合」はおおむね、その目標に近づいていると思います。(10月から、カルチャーセンターの講座で使用する予定です。)

 

◆7冊の「歴史総合」教科書を検討してきました。実際の授業を想定すると、しばらくは試行錯誤が続くのではないかと思います。過度な期待はできません。世界と日本の近現代史と対話することは、高校教員でもなかなか大変です。生徒たちには、広い視野を持って、いくつもの問いをかかえながら、「世界史探究」や「日本史探究」に向かってもらえば、それでいいと思います。