世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討9【山川「現代の歴史総合」の「1968年」】

 

◆山川の「現代の歴史総合」(歴総708)は、史料が豊富で、意欲的な教科書です。ただ、残念ながら「歴史総合」は2単位です。実際の授業ですべての史料を取り上げることは不可能だと思います。

 

◆「現代の歴史総合」の独自性はたくさんあると思いますが、私が注目したのは、戦後史です。史料として「村山談話」(1995年8月15日)を取り上げていました。他社の教科書でも取り上げてほしい、重要な史料だと思います。また「日本とインドの鉄道」の歴史の後に、国鉄日本国有鉄道)の分割民営化も取り上げていて、「歴史総合」にふさわしい内容でした。

 

◆さらに「現代の歴史総合」は、「1968年」という項目を設け、1ページを割いていました(179ページ)。「1968年」を取り上げるにあたっては、執筆者・編集者に一定の勇気が必要だったと思います。「1989年」でさえ現在では評価が難しくなっていますので、「1968年」となればなおさらだからです。

 

◆フランス五月革命における「ポンピドゥー首相の発言」は初めて知りましたが、若者たちの提起を正面から受けとめた、すばらしい内容でした。ポンピドゥー首相の指摘は、日本の「全共闘」の若者たちにも当てはまるものでした。せっかく「1968年」を取り上げたのですから、注においてでも「大学闘争」や「全共闘運動」に触れてあれば、なおよかったと思います。(なお、東大「紛争」の写真を載せている他社の教科書は、複数あります。)

 

◆意欲的な「1968年」のページは、しかし、写真史料の取り上げ方に問題がありました。<日本の「ベ平連」などの運動(1969年)>と題された写真です。「など」とあいまいな表現にしていますが、この写真を見る高校生はベ平連のデモだと受けとるでしょう。しかし、写真はベ平連のデモではありません。ベ平連(「ベトナムに平和を!市民連合」)の説明もまったくないのですが、ベ平連のほとんどの人たちはヘルメットはかぶりませんでした。覆面もしていませんでした。写真に写っているのは、新左翼系の学生たち(もしくは労働者たち)のデモだと思われます。

 

◆現代史の中に「1968年」を位置づけようとする姿勢はすばらしいものでした。しかし、高校生が手にする歴史教科書に不正確な写真史料を載せることは、許されないと思います。