世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼歴史は繰り返されるのか【ロシアのウクライナ侵攻と66年前のハンガリー】

 

◆ロシア軍のウクライナ総攻撃という、歴史的にきわめて重大な出来事が進行しています。

 

◆「これは戦争ではなく特別な軍事行動だ」などと詭弁を弄するプーチンですが、ロシア軍はウクライナを全土で激しく攻撃しています。多数のウクライナ市民がポーランドなどに逃れようとしています(UNHCRは避難民が100万人にのぼると予測)。「首都キエフの陥落間近」という情報も飛び交っています。キエフを守るために、ウクライナ軍は壮絶な戦いを強いられていると思います。[2022/2/25、日本時間午後2時現在]

 

◆「ウクライナとロシアの密接な歴史」を主張するのであれば、プーチンウクライナをリスペクトするべきでしょう。しかし、プーチンにあるのは、強烈な支配欲だけのようです。短期的にはプーチンの軍事作戦は成功するのでしょうが(ウクライナ人のゲリラ的抵抗が長く続くことも考えられます)、「兄弟国」ウクライナに侵攻したという事実は、ロシアの歴史に大きな汚点を残すことになるでしょう(ロシアの58の都市で戦争反対のデモが行われたと伝えられています)。のちに、「ウクライナ侵攻でプーチンは自ら墓穴を掘った」と言われるようになるかも知れません。

 

◆侵攻が多数のウクライナ人の命を奪うこと、多数のウクライナ人の人生を破壊すること、それらをプーチンは考えることができません。「ソヴィエト帝国」という幻影に囚われているからです。時代の変化をとらえ切れずに、「ソ連時代をもう一度」と考えるのは、危険極まりありません。

 

 

★1956年、ソ連軍によるハンガリー侵攻(民主化・中立化弾圧)がありました。1968年の「プラハの春」弾圧と並んで、第二次世界大戦後の「ソヴィエト帝国」の暗部を象徴する出来事でした。「歴史は繰り返す」のでしょうか? ハンガリー事件を振り返ってみます。

 

★高校の世界史教科書では、簡単に記述されているだけです。

 

 「[ポーランドポズナニ暴動の後]1956年10月ハンガリーでは、社会主義体制とソ連からの離脱を求める大衆行動が全国に拡大した。ソ連はこの動きを軍事介入によって鎮圧し(ハンガリー事件)、首相ナジ=イムレはのちに処刑された。」

 【「詳説世界史」山川出版社

 

★首相ナジ・イムレ(ハンガリー語では、日本語と同じく姓・名の順なので、イムレ・ナジ)は、次のように国民に演説していました(1956/11/1)。

 

 「ハンガリー国民、政府は、国民および歴史に対する責任を痛感し、かつ幾百万のハンガリー人の一致した意思を確信し、ハンガリー民共和国の中立を宣言する。ハンガリー国民は、独立と平等のもと、国連憲章の精神にしたがって、その隣人たち、ソ連および世界のすべての国民と真の友好を保つことを希求する。ハンガリー国民はいずれの勢力圏に入ることもなく、その民族革命によって獲得された成果を強固にし、発展させることを望んでいる。(中略)ハンガリー労働者よ、革命的意志をもって労働と自己犠牲の精神を、また秩序の尊重によってわが国、自由、独立、中立ハンガリーを擁護し強化されたい。」

 【フランソワ・フェイト「世界をゆるがせた十三日間」(加藤雅彦訳)より】

 [『ドキュメント現代史10・東欧の動乱』(1973、平凡社)所収]

 

 *しかし、この演説後まもなく、ハンガリーの空港がソ連軍によって包囲されました。そして、11月4日未明、ソ連軍は首都ブダペストに侵入してきました。

 

★首相ナジ・イムレの国民向け演説(1956/11/4、朝5時過ぎ)

 

 「こちらはイムレ・ナジ首相である。本日未明、ソ連軍はハンガリー民共和国の合法政権に対し、明らかな意図をもって首都を攻撃し始めた。我が国は戦闘中である。」

 【同上書】

 

★自由コシュート放送から流れた、ハンガリー作家同盟のアピール(1956/11/4、朝8時前)

 

 「ハンガリーを助けてください。ハンガリーの作家、学者、労働者、農民を助けてください。助けを! 助けを! 助けを!」

 【同上書】

 

 *この放送後まもなく、自由コシュート放送の電波は途絶えたそうです。ソ連軍が放送局を占拠したのでした。

 

★1956年時点では、ハンガリーを助ける国はありませんでした。1989年まで30年余り、ハンガリーの人々は耐えねばなりませんでした。

 

◆今、「助けを!」と叫ぶ声が、ウクライナから聞こえています。ただ、やむをえないことではありますが、ウクライナを軍事面で直接助ける国はありません。アメリカもNATOも、動けないのです。アメリカやEU経済制裁がどのくらい効果があるのかも、定かではありません。

 

◆しかし、たとえキエフが陥落したとしても(*)、ウクライナは決して滅びないでしょう。

 

【追記】

(*)日本時間 2/26 14:20現在、キエフはまだ持ちこたえています。

   ❝ Russians  close  on  Kyiv  but  meet  strong  resistance ❞

   【イギリスBBCのサイトの見出し】