世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼ロシア軍がウクライナに侵攻[2022/2/24]【ウクライナの歴史は…】

 

◆去年の11月ごろから、ウクライナ情勢を注視してきました。何か大きな動きがあるように感じたからです。クリミア半島併合(2014)だけでなく、ソ連時代のハンガリー事件(1956)やチェコ事件(1968)のことも思い出していました。

 

◆ただ、非常に難しい問題だからでしょうが、大学の研究者の方たちも、なかなか核心に迫れないようでした。1週間ほど前ですが、「ロシアの侵攻はない」と余裕の表情で断言した財団研究員の方もいました。「なんて甘い見方だろう」と思いました。私は「プーチンは外交的解決など望んではいない、多分ウクライナに侵攻するだろう」と考えるようになっていたからです。

 

◆今日の侵攻の規模がどのくらいなのか、ドネツク州とルガンスク州に限定されているのか、ウクライナ全土に及んでいるのか、現時点では(2/24、日本時間午後3時)まだわかりません。

 

ウクライナ(人口は4,400万人余りで、中東欧では最大です)は、1991年の独立後最大の危機に直面しています。ウクライナ政府やウクライナ軍は持ちこたえられるでしょうか? 欧米諸国は有効な手を打てるでしょうか?

 

プーチンは、アメリカやNATOが軍事的に行動できないことを見越しながら、冷戦終結後の欧米中心の国際秩序を壊し、つくり変えるという野望を抱いているのだと思います。多分、習近平と手を結びながら。

 

◆それにしても、国連の無力さは誰の目にも明らかです。

 

 

キエフ・ルーシ(キエフ公国)の繁栄の後、さまざまな国や民族の支配を受けてきたウクライナウクライナ人の詩と文章を紹介します。】

 

タラス・シェフチェンコの詩(1845)★

 

  わたしが死んだら

  なつかしい ウクライナ

  ひろい丘の上に

  埋めてくれ

  かぎりない畑とドニェプルと

  けわしい岸べが みられるように

 

  ドニェプルが ウクライナから

  すべての敵の血潮を

  青い海へ 押し流すとき

  わたしは 畑も 山も

  すべてを捨てよう

  神のみもとに かけのぼり

  祈りもしよう だがいまは

  神の ありかを知らない

 

  わたしを埋めたら

  くさりを切って 立ち上がれ

  暴虐な 敵の血潮と ひきかえに

  ウクライナの自由を

  かちとってくれ

  そしてわたしを 偉大な 自由な

  あたらしい家族の ひとりとして

  忘れないでくれ

  やさしい ことばをかけてくれ    [渋谷定輔・村井隆之訳]

 

 【黒川祐次『物語ウクライナの歴史』(中公新書、2002)より】

 

帝政ロシア支配下にあった時代の詩です。

 

 

★88歳のマリーナが語ったこと★

 

 『1944年、赤軍ソヴィエト軍)が村に戻ってきたとき、彼女[マリーナ]の両親は赤軍に殺された。彼女の目の前で、二人とも。(中略)私がそれを知ったのは10年も前のこと。10年前はまだいろいろ「話せない時代」だったから、その時に大人が黙っていたことはおかしくない。彼女の父親はドイツ語ができたので、占領軍(ドイツ軍)の事務所で秘書として働いていた。そこへ赤軍が入って来たから、家族全員が殺されたのだった。敵に協力していたという理由で。小柄なマリーナはまだ子どもだったので、隠れていて助かった。隠れていた所から家族の遺体が墓に運ばれるところも見ていた。見つからないように、声を出さないで泣いた。そして、その後、自分の家族のことはいっさい話さなかった。家族のことを聞かれたら、「みんな戦争で亡くなった」と言っていた。その頃は、戦争で亡くなった人が多かったから疑う人はいなかった。話せないことが多いから、かわりに微笑んでいた。なんとかして生き延びる必要があったから、微笑んでいた。』

 

【オリガ・ホメンコ『ウクライナから愛をこめて』(群像社、2014)より】

 

ロシア革命(1917)の後、ウクライナボリシェヴィキロシア共産党)に支配されました。ウクライナは、1922年に成立したソ連の構成国となります。70年に及ぶソ連の時代(~1991)、ウクライナは実質的にはロシア共産党支配下におかれました。第ニ次世界大戦中、一時ナチス・ドイツに占領されますが、ソヴィエト軍が撃退しました。マリーナさんは、その時の悲劇を回想しています。

 このような歴史があるため、いま人々は、独立した主権国家ウクライナを、プーチンの魔の手から必死に守ろうとしているのです。

 

 

 

 

 

ウクライナ国旗の青は大空を、黄色は大地(麦畑)を表しています。ウクライナが、ウクライナの人びとが、「暴虐」から守られますように。