世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼軽く扱われた「医療緊急事態宣言」【新聞の弱まる報道力、人びとに広がる不信・諦め】

 

◆今年の春頃、「ロックダウンをしなくても自粛する日本人はすばらしい」というような論調がありました。しかし、今はどうでしょうか? 自粛要請に応じない人が増えてしまったと思います。北海道や大阪を除いて、市街地への人出は減少しないという状態が続いています。政府が右往左往を繰り返しているため、信頼感が薄れているのでしょう。

 

◆そのような状況の中で、12月21日、日本医師会日本看護協会など9団体が、「医療緊急事態宣言」を出しました。移動制限などの強力な対策を政府に呼びかける、切迫した内容のものでした。しかし、新聞各紙の報道はあまり大きなものではありませんでした。来年度予算案の発表と重なったためでしょうか? ネット社会とはいえ、紙の新聞はまだ世論喚起力を持っていると思いますので、たいへん残念でした。

 

◆各紙(私の住んでいる地方の版です。東京新聞は手に入りません。)の本日(12月22日)一面トップの見出しは次の通りでした。

 ・読売   「コロナ克服へ最大予算」

 ・朝日   「吉川元農水相議員辞職

 ・毎日   「吉川元農相本格捜査へ」

 ・産経   「コロナ変異種世界拡散」

 

◆読売が新年度予算案の記事を持ってきていたのは、理解はできます。ただ、一面には、「医療緊急事態宣言」の記事はありませんでした。社会面に簡単に載せているだけです。

 

◆朝日、毎日、産経も、一面に「医療緊急事態宣言」の記事はありませんでした。各紙とも、危機感が足りません。宣言と会見の内容は、社会面で朝日が一応ていねいに紹介していたとは思いますが、それほど大きな記事ではありませんでした。産経は、今の日本のことをトップに持ってくるべきだったでしょう。

 

◆医療関係9団体が共同で「医療緊急事態宣言」を出すのは、よほどのことだと思います。しかし各紙とも、この危機的状況の中で、「医療緊急事態宣言」の重要性を、つかみ切れていませんでした。日本の新聞の報道の力は、落ちているとしか思えません。

 

◆ネットに情報が溢れる中、新聞記者も編集デスクも情報に振り回される時代なのかも知れませんが、何が重要な情報なのかをきちんと判断して記事にしてほしいものです。もしかしたら、現場の取材力が劣ってきているのではないでしょうか? 今までに医療現場や保健所の徹底した取材があれば、「医療緊急事態宣言」を軽く扱うなどということはなかったと思います。今の新聞は、現場の取材記事よりも、記者や識者のオピニオンが多くなる傾向にあります。しかし、現場を徹底的に取材して事実を明らかにし、人びとの生の声をすくい上げること、それが新聞の使命のはずです。

 

◆一方、首相からの、国民への心のこもったメッセージはありません。人びとを鼓舞するようなスピーチをする気持ちも能力もないのでしょう。本音は大人数での豪華な会食に表れてしまいました。残念なことですが、日本人はこのようなリーダーの下で暮らしているのです。人びとの中に失望や諦めが広がっていて、コロナとたたかう気持ちも弱まっていると思います。新聞各紙は、このような現実を取り上げ切れていません。自殺者が増えていますが、人びとの失望や諦めが必ずしも怒りにならないところに、日本社会の危うさを感じます。

 

◆2020年も、今日を含めて10日となりました。今週後半からの感染者数、重症者数、病床使用率がどうなっていくか、そして亡くなる人の数がどうなっていくか、とても心配です。政府の中途半端な政策がこのまま続けば、医療・雇用をはじめ社会全体が、さらに深い傷を負うことになってしまうでしょう。