世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★道教のふしぎ ①(江南に触れない教科書)

 

◆中国の三つの宗教(儒教、仏教、道教)のうち、最も捉えがたいのは道教でしょう。しかし、現在の中国・台湾で人びとに最も信仰されているのは道教のようです。

 

◆高校の世界史の教科書記述から道教を理解するのは、困難な状態です。第一学習社の「倫理」では、比較的よく説明されていました。

 

◆コンパクトな世界史辞典や用語集の中では、角川書店版の記述が最も的確だと思います。その一部を紹介します。

  「古代以来の信仰上、哲学上の要素である神仙思想、道家思想、陰陽五行説、占卜、呪術等が習合され、仏教の影響が加わって成立した。教義は複雑雑多であるが、不老長生を主とし、現世利益的であり、様々な神を持つ。」【『角川世界史辞典』、2001】

 

◆高校の世界史の教科書を見てみると、老子荘子以外では、張角太平道、張陵の五斗米道寇謙之、王重陽の全真教が取り上げられています。第一学習社の「倫理」では、寇謙之、王重陽に触れています。

 

◆これらに共通する問題点は、道教の形成における江南の重要性にまったく触れていないことです。山川の『世界史用語集』も同じです。なぜこういうことが起きたのか、不思議でなりません。上述の『角川世界史辞典』には触れられています。『山川世界史小辞典・改訂新版』(2004)の記述は不十分でした。

 

◆最新の道教概説書である神塚淑子道教思想10講』(岩波新書、2020)には、晋・東晋南朝期の江南における道教の形成について、詳しく述べられています。晋の葛洪の『抱朴子』、梁の陶弘景の『真誥』、宋の陸修静などが重視されていて、江南における道教形成について認識を新たにしました。

 

◆新課程の教科書では改善されているでしょうか?