世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討 7【フェミニズム】

 

◆「歴史総合」は、世界と日本の総合的な近現代史です。フェミニズム(女性解放をめざす思想・運動、女性差別の克服をめざす思想・運動)について取り上げないということは考えられません。[*1]

 

[*1]フェミニズムという語は、ほぼ次のような意味で使っています。

 「女性の社会・政治・法律上の権利の行使を擁護し、性差別の克服をめざす考え方。」【『岩波国語辞典』第八版、2019】[*2]

[*2]「性差別」には、当然ですがジェンダーによる差別が含まれます。

 

◆山川の「歴史総合」(歴総707)は、フェミニズムには冷淡なようです。オランプ・ド・グージュにも、平塚らいてうにも触れていません(一方で歌手の笠置シヅ子を写真入りで載せているのはなんともアンバランスです)。当然ながら女性参政権獲得運動は取り上げていますが、索引に「女性参政権」という語はありません。

 

◆山川の「現代の歴史総合」(歴総708)は、1960年代以降の反差別運動の一つとして、フェミニズムについて述べています。平塚らいてう市川房枝にはきちんと取り上げていますが、オランプ・ド・グージュには触れていません。フェミニズムの流れを、18世紀末のオランプ・ド・グージュやメアリ・ウルストンクラフトから大きく捉える視座はなかったようです。

 

◆実教の「詳述歴史総合」(歴総703)や「歴史総合」(歴総704)は、オランプ・ド・グージュにきちんと触れていまし、索引にも「グージュ」で載っています。もちろん、平塚らいてう市川房枝も取り上げています。「歴史総合」は、自由民権運動のところで岸田俊子・景山英子にも触れています。また、「母性保護論争」を取り上げていて、すばらしいと思いました。ただ、どちらの教科書も、フェミニズムジェンダーという語は使っていません。

 

◆女性解放の歴史に最も力を入れているのは、東書の「詳解歴史総合」(歴総702)だと思います。「平等・格差」という特集ページでは、オランプ・ド・グージュから津田梅子、「途上国の教育男女格差」まで取り上げながら、多角的・総合的に述べています。またこの特集ページで、イギリスのサフラジェットに関する風刺画が載っていたのには驚かされました。サフラジェットは、今まで世界史の教科書で取り上げられたことはなかったと思います。「世界史探究」でも、ぜひ取り上げてほしいものです。

 

◆「詳解歴史総合」の平塚らいてうの取り上げ方は明解です。女性解放の思想・運動の歴史の中に位置づけています(市川房枝には触れていませんが)。また「女性と近現代」という特集ページでも、女性解放運動の歴史がまとめて述べられていて、すばらしいです。ただ、フェミニズムを「女権拡張論」としているのは、誤解を招く古くさい表現です。

 

◆5冊の教科書を比較・検討してきましたが、用語の問題は重要だとあらためて思いました。残念ながら、フェミニズムジェンダーという語はほとんど使われていませんでした。フェミニズムジェンダーという語を普通に使った歴史記述であってほしかったと思います。これからの社会を生きる生徒たちが、高校ではじめて学ぶ歴史科目なのですから。