世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討14【第一学習社のすぐれている点・不十分な点】(最終更新8/9 19:35)

 

★今回取り上げるのは、第一学習社の「新歴史総合」[歴総711]です。(より詳しい記述の[歴総710]もありますが、未読です。)

 

 

<すぐれている点をいくつかあげてみます>

 

◆巻頭で、中学校で学んだ歴史の流れを17世紀まで確認できるようになっている。

 

◆時代を概観するページ(「時代の扉」)が①から⑤まであるが、見開きの右側のページに図版が並べられ、簡潔でわかりやすい。

 

◆風刺画に頼る教科書も少なくないが(歴史を風刺的に見るクセがついてしまっては困ると思う)、風刺画の点数は適度に抑えられている。

 

◆「貧困と格差の解決に向けて」や「戦争と庶民」などの特集ページで、適切な史料が載せられている。

 

◆「歴史の目」という特集では、1ページ全部を使って、オランプ・ド・グージュ、アンネ・フランク石橋湛山柳宗悦などを取り上げている。

 

◆別のページでは、メアリ・ウルストンクラフトにも触れている。

 

◆「国民国家」のページでは、グリム兄弟にも目配りしている。

 

◆目立たないが、南北戦争後のアメリカ合衆国の記述で、「黒人」ではなく「アフリカ系アメリカ人」という語を使っている。

 

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を、昭和初期という時代の中に位置づけて紹介している。

 

◆ドイツでナチスに抵抗した「白バラ運動」の写真と解説がある。

 

◆短いが、慰安婦の記述がある。

 

オバマ元大統領の広島訪問を取り上げ、被爆者と抱き合う写真を載せている。

 

ドナルド・キーンも取り上げており、視野の広さが感じられる。

 

 

<不十分な点を若干あげてみます>

 

▼巻頭特集で「ユダヤ教キリスト教」と「イスラーム」をクローズアップしているが、宗教の取り上げ方としては中途半端だった。南アジア・東南アジア・東アジアの理解のために、「ヒンドゥー教・仏教」を、できれば「儒教道教」まで取り上げてほしかったと思う。

 

大日本帝国憲法の記述では立憲制の意義に重点がおかれていたが、国民(臣民)の権利の制限を明確に述べるべきだった。また、参謀本部の独立性や天皇の神格化を含め、1945年まで続く「大日本帝国憲法体制」の総体をとらえる視座が、もう少し強く出されていればよかった。

 

▼ナイティンゲールやジャポニスムは、残念ながら執筆者・編集者の視野に入っていなかったようである。他の記事でも述べてきたが(検討2、検討10)、19世紀の歴史の中に、適切に位置づけることができたはずである。

 

▼「女性の権利獲得と社会進出」のページでは、ジェンダーという語が使われていてよかった。しかし「ジェンダー(性差)」という記述では不十分で、誤解を招くだろう。ジェンダーとは「歴史的・社会的・文化的に形成された性差」であることをきちんと説明すべきだったと思う。

 

▼「歴史の目」では12人の人物が取り上げられているが、水木しげる手塚治虫黒澤明の3人は同じ時代(戦中~戦後)を生きた方々である。それぞれの生き方には敬意を抱いているが、1人に絞ってもよかったのではないか。そのうえで、日米の間で苦しみながら活躍した彫刻家イサム・ノグチや『苦海浄土』で根源的なところから水俣病を告発した石牟礼道子などを取り上げれば、より多角的な「歴史の目」になったのではないかと思う。

 

 

第一学習社の「新歴史総合」は、全体としては、よく考えられた構成・記述になっています。東京書籍の「詳解歴史総合」のように「内容はすばらしいけど、実際の授業では使いにくい」という教科書もありますが、そのような心配はないでしょう。「わかりやすさ」と「深さ」(もしくは「深さ」につながる内容)の両立に、一定程度成功していると思います。