世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★近現代のメキシコ【探究的な授業へ⑤】

■「ヨーロッパ中心史観」あるいは「欧米中心史観」からの脱却が叫ばれて久しく、高校の世界史でもいろいろな改善は積み重ねられてきました。

 

■ただ、ラテンアメリカカリブ海地域は、現行の「世界史B」でも軽い扱いが続いてきました。ハイチ独立が注目を集めた時期もありましたが、今はそれも沈静化してしまったようです。

 

■ましてラテンアメリカの文化は、きちんと位置付けられないままです。東書の教科書では先駆的な叙述がありましたが、十分に展開されないままでした。

 

■このような状況の中で、今回はメキシコの近現代史を取り上げてみます。詳細な記述を目的としたものではありません。予備校での授業を基にして、授業での取り上げ方の骨格を提示します。近現代のメキシコへの視点や授業の組み立て方を理解していただければと思います。

 

■現在のメキシコを簡潔に確認するところから、授業に入ります。

 

【現在のメキシコは】

 

  ・スペイン語圏で最多の人口(約1億1千万人)

  ・メスティーソが6割、インディオが3割、ヨーロッパ系が1割

  ・9割がカトリック

 

【近現代のメキシコの歩み】

 

1 スペインからの独立(1821)

   神父イダルゴの活動から

    イダルゴの肖像画★1

    独立運動で民衆が叫んだことば★2

 

2 アメリカ=メキシコ戦争での敗北(1848)

   カリフォルニアの割譲★3

 

3 フアレス政権の改革とフランス軍撃退(1858~72)

 

4 ディアス独裁政権(1877~1911)

 

5 メキシコ革命(1910~17)

   ・マデロ、サパタ、ビリャ

   ・カランサ政権の新憲法採択

 

6 ★4 再び★1

 

7 メキシコの宗教文化 再び★2

 

【授業のポイント】

 

① 【現在のメキシコは】では、スペイン語圏、メスティーソインディオカトリックなどについて質問しながら、重要な点を確認します。

 

② 1の民衆のことばや、2・6・7を組み入れている点が、本授業の特徴になります。 

 

③ 2のアメリカ=メキシコ戦争は、通常アメリカ合衆国史だけで取り上げると思います。しかし、メキシコ側からの視点も大切です。テキサスの併合を含めて、メキシコの国土は半減したのでした(★3)。現在のアメリカ合衆国のヒスパニック系移民の問題は、この時期に淵源があるとも言えます。

 

④ メキシコ革命の後に、6を組み入れています。★4は、「メキシコ壁画運動」(1920年代~50年代)です。壁画運動はメキシコ革命の中から生まれました。メキシコの歴史を振り返りながら、メキシコ人のアイデンティティを確認した、芸術・社会運動でした。[山川の詳説世界史では、歴史的文脈抜きに、最後に取り上げていました。]

 

⑤ 1では、イダルゴの肖像画を提示しておきます。そして、6でもう一度取り上げます。1で提示したイダルゴの肖像画は、メキシコ壁画運動の中で描かれた壁画だったことを話します。

 

⑥ ★2は、次のことばです。「聖母グアダルーペ万歳!独立万歳!」。1の「スペインからの独立」では、ことばのみ提示しておき、6の「メキシコの宗教文化」で解説します。聖母グアダルーペ信仰は、カトリックと土着信仰の融合ですが、メキシコ人の魂のよりどころとなっています。

 

※イダルゴの肖像画は資料集などに載っていますが、もともとは壁画ですので、プリントを用意したほうが迫力があると思います。他の壁画や聖母グアダルーペの画像は、スマートフォンタブレットなどで検索させてもいいと思います。 

 

■以上のような授業の流れを準備しながら、生徒たちが考える時間、調べる時間をとっていきます。その中から、授業者が予想していない展開が起こるかも知れません。それが、「探究的な授業」の醍醐味だと思います。