世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「世界史探究」教科書の検討15[フランス革命の複合性と功罪]

 

フランス革命(1789~99)の捉え方は、大きく変わってきました。半世紀前は、自由・平等を掲げた、典型的なブルジョワ革命(市民革命)とされていました。その後(30年ぐらい前からでしょうか)革命の心性や政治文化に焦点が当てられ、やがて国民国家の創生に重点をおいた見方が一般的になりました。この見方は現在も続いていますが、近年は、革命の複合性と功罪が多角的に検討されるようになったと思います。

 

フランス革命の複合性に焦点を当てているのは、山川の『新世界史』です。「複合革命」というコラムで詳しく述べています。貴族、ブルジョワジー(平民の中の裕福な階層)、都市民衆、地方の農民という4つの勢力の対立・協調から、フランス革命を捉えようとしています。ただ、高校の教科書としてはやや難解かも知れません[*1]。また、農民の視点も重視しているにもかかわらず、本文でヴァンデの反乱(1793)に触れていないのは片手落ちでしょう。

 

[*1]実教の『詳述歴史総合』は、フランス革命の導入部で、4つの勢力について簡潔にまとめていました。

 

フランス革命の複合性と功罪を多角的に考えようとすれば、①<検討14>で述べた「女性の権利」と②内戦とも言うべきヴァンデの反乱に触れないわけにはいかないと思います[*2]。ヴァンデの反乱をきちんと取り上げているのは、東書と実教です(山川・詳説は「フランス西部」という表現でした)。

 

[*2]ヴァンデの反乱については詳述できませんが、近年発行の一般書では、福井憲彦著『教養としてのフランス史の読み方』(PHP研究所、2019)と竹中幸史著『図説フランス革命史』(河出書房新社、2013)が、ヴァンデの反乱を詳しく取り上げています。前者は、ていねいでわかりやすい記述です。また、後者にはめずらしい図版が複数あって、考えさせられます。

 

フランス革命の複合性と功罪を多角的に考える視点としては、このほかにも、言語や教育、さらには植民地の問題があります[*3]。授業できちんと取り上げる余裕はないでしょうが、現代につながる重要な視点です。生徒たちに課題として投げかけておくことはできるのではないでしょうか。

 

[*3]平野千果子編著『新しく学ぶフランス史』(ミネルヴァ書房、2019)が、とても参考になります。

 

◆なお各社の教科書とも、従来の「ジャコバン派」から「山岳派ジャコバン派)」ないしは「ジャコバン派山岳派)」という表記に、ようやく変わりました。「山岳派ジャコバン左派)」と表記する教科書があってもよかったと思います。