世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「世界史探究」教科書の検討8[宗教改革(刷新された山川・詳説)]

 

山川出版社の『詳説世界史』には、かなり辛口の評価をしてきましたが、宗教改革のページは旧課程の教科書から大幅に刷新され、充実した内容になっています。

 

◆私は、「世界史の扉をあけると」でも述べたように、宗教改革期のイコノクラスム(聖像破壊運動)に注目してきました。プロテスタントによる聖像礼拝の否定は、聖像の破壊にまで進むことがありましたが、この事実を世界史の教科書は伝えてきませんでした。プロテスタントの研究者の影響力が強く、プロテスタントの暴力に触れたくなかったのでしょうか? たとえ執筆者がプロテスタントの方であったとしても、歴史的事実は直視しなければなりません。

 

◆山川の新しい『詳説』は、注においてではありますが、次のように明記しています。高校の世界史教科書としては、画期的なことだと思います。

 

 「これ(引用者注:カトリックの聖像使用)に対して、プロテスタント諸派は聖像や聖画を重視せず、宗教改革が実現した地域では、それらが破壊されることも多かった。」

 

◆また山川・詳説では、「カトリック改革」という用語を使っていて、ここでも歴史学の成果を積極的に取り入れています。東書や実教の教科書は、旧課程の教科書を踏襲して「カトリックの改革運動」と記し、「対抗宗教改革」を太字にしていますが、「カトリック改革」と「カトリックの改革運動」では意味するところが違います。「カトリック改革」という語は、カトリックの動きをプロテスタントの形成と同等に、宗教改革全体のなかに位置づけた表現だからです。

 

◆山川・詳説の「カトリック改革とヨーロッパの宗教対立」の項は、すぐれた内容になっています。美術史では定着した見方ですが、カトリック改革とバロック美術との関連が述べられています。図版にバロック絵画を載せているのも、「探究」にふさわしいものでした。ただ、ザビエルの肖像画(生徒たちにもよく知られたものだと思います)は、17世紀の初めに日本で描かれたことを記してほしかったと思います。

 

◆一方、「(カトリック)教会は禁書目録を定め、宗教裁判を強化するなど、知の弾圧者となった側面もあった」と指摘することも忘れていません。山川・詳説は、全体として、プロテスタントカトリックを公平にヨーロッパ近世社会の中に位置づけており、執筆した歴史研究者の良識がよく表れていました。

 

◆なお、実教と東書の「カトリックの改革運動」は、わずか10行から15行の記述で、きわめて軽い取り上げ方です。宗教改革全体がプロテスタントに偏った扱いになっているのです。新しい「探究」の教科書であるにもかかわらず、古い歴史の見方がそのまま残ってしまいました。

 

◆特に実教は、驚くほど貧弱な内容です。ルネサンスの記述の検討でも述べましたが、ジェンダーなど新しい視点をコラムでたくさん取り上げても、本文が古いままでは教科書としての評価は高くならないと思います。