世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「世界史探究」教科書の検討5[ルネサンス①(山川・詳説の改善と後退)]

 

★山川「詳説世界史」のルネサンスの記述には、改善された部分と大きく後退した部分がありますので、授業では注意が必要です。

 

◆改善された部分

 

 ●「ルネサンスの精神」という項で、古代ギリシア文化の発見・再生が明解に述べられています。また、占星術錬金術の意義にも触れています。ルネサンスの全体像を叙述することは案外難しいのですが、コンパクトにわかりやすく提示されていると思います。

 

 ●図版に、ラファエロの「アテネの学堂」、コペルニクスの「天球図」、レオナルド・ダ・ヴィンチの「解剖手稿」が加わりました。

 

◆後退した部分

 

 ●ルネサンスにおけるネーデルラントの位置づけが不明瞭になってしまいました。旧課程版(世界史B)にあった次の記述は、なぜか削除されています。

 「(ルネサンスはイタリアや)南北ヨーロッパ商業の中継地として毛織物工業が成長したネーデルラントではやくから展開した」

 

 ●このためでしょう、ファン・アイク兄弟の名も本文から消えてしまいました。ネーデルラントルネサンスに触れないのは、世界史の教科書として大きな欠点です。執筆者にも編集者にも、西洋美術史で重視されている「ネーデルラントとイタリアの交流」という視点がなかったのでしょう。このような記述では、ルネサンスを、広がりを欠いた「イタリア・ルネサンス」と誤解してしまう生徒たちも出てくると思います。エラスムス(「ロッテルダムエラスムス」と呼ばれました)がネーデルラントから現れた意義も理解されないでしょう。

 

 ●総じてアルプス以北のルネサンスを軽視したのでしょう。チョーサーの名は、本文にはなくなりました。デューラーさえ、本文から削除されています。

 

 ●また建築への目配りがないのも、大きな特徴です。フィレンツェの象徴であるサンタ・マリア大聖堂の写真や、宗教改革との関連でも重要なサン・ピエトロ大聖堂の写真はありませんし、両大聖堂の名は本文にもありません。

 

ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」を載せることは、他社も含め、世界史教科書の定番になっています。ただ、どのような意図で載せているのでしょうか? 新課程版になったのですから、ルネサンスが、古代ギリシアの「愛と美の女神アフロディテ」(ローマ名ウェヌス)の復活・再生でもあったことに、絵の解説や注で触れてほしかったと思います。

 

◆マキァヴェリをルネサンスのページからイタリア戦争のページに移したことは評価できます。しかし、一方で、モンテーニュを「ルネサンスの文芸と美術」という囲みの中に小さな文字で残しながら、ユグノー戦争期のフランスで取り上げないのは、片手落ちと言わざるを得ません(旧課程版も同じですが)。

 

◆残念ながら、全体的には、改善された部分よりも後退した部分や不十分な点のほうが多いと思われます。山川には、「詳説」や「探究」の名に恥じないような教科書作りをお願いしたいと思います。