◆実教出版の「世界史探究」と東京書籍の「世界史探究」の場合、ルネサンスの記述はどちらも旧課程版(世界史B)を踏襲しているようですので、簡単に感想を述べておきたいと思います。
<実教のルネサンスの取り上げ方>
◆必要な事項はほとんど網羅されており、図版も豊富です。特にファン・アイクの「ロランの聖母」を載せているのは、他社の教科書には見られない、すばらしい点だと思います。「印刷術と文化の革新」というコラムの内容も適切です。
◆ただ、構成上の問題があります。第10章近世ヨーロッパの最初に「1ルネサンスと宗教改革」を置いているのですが、ルネサンスと宗教改革を並列させながら近世ヨーロッパの始まりを見る見方は、半世紀前のものです。もしかしたら、実教の教科書は、1950年代か60年代からずっと同じタイトルを使い続けているのかも知れません。
◆構成としては、「1ルネサンス」、「2宗教改革」とすべきでしょう。なぜなら、宗教改革はルネサンスとの比較で論じられるよりも、主権国家の形成と連動して論じられるようになっているからです。イギリスやドイツ地方の例からもわかるように、ローマ教皇圏からの離脱は、主権国家の形成(ドイツ地方の場合は領邦主権の形成)を意味していました。
◆実教の教科書は、本文は古いままにしながら、新しい内容をコラムでつけ加えていく傾向があります。せっかく新しい科目名になったのですから、「1ルネサンス」、「2宗教改革」として、本文も少し刷新してほしかったと思います。
<東書のルネサンスの取り上げ方>
◆東書の最大の問題は、ルネサンスが中世ヨーロッパの最後に位置づけられていることです。新しい科目になる機会に改めてほしかったと思います。
◆ルネサンスを中世末に位置づけた理由を、「(ルネサンスは)中世末期の都市をおもな舞台として生成したものだからである」と述べていますが、生成と成立・展開は異なります。生成に重点をおくなら、宗教改革も中世末に位置づけ、ウィクリフやフスから始めるべきだったでしょう。
◆すでに「世界史の扉をあけると」でも述べていますが、中世末にルネサンスを位置づけたため、16世紀後半のモンテーニュ、シェークスピア、セルバンテス、そして17世紀前半のガリレイまで、中世末の流れで学ぶというちぐはぐな内容になってしまいました。
◆前回述べたネーデルラントのルネサンスについてはたいへん適切な記述があり、「イタリアに学んだポーランド人コペルニクス」というような工夫された表現も見られるだけに、残念でなりません。