◆「イスラームをどう取り上げるか」は、今日、ますます重要な課題になっています。今回は、「イスラーム」と記すべき理由を中心に、3社の「世界史探究」教科書を検討します。
◆まず「イスラーム」について、基本的なことを確認します。
「イスラームとは❝絶対帰依すること❞の意で、唯一神アッラーとその使徒であるムハンマドを信じ、聖典クルアーンの教えに従って生きることを意味する。そのため、狭義の宗教面に限らず、社会生活全体をイスラームが律するものとされる。」
「近年では、欧米では Islam 、中国では伊斯蘭教、日本ではイスラームまたはイスラムと表記されている。イスラーム教も用いられるが、イスラームだけで宗教名となっている点、またイスラームには狭義の宗教を超えて社会・経済・政治なども含まれるという点から、イスラームと表記する場合が多い。」
◆「イスラームと記すべきか、イスラーム教と記すべきか」は、単なる表記の問題ではないことがわかると思います。このような見方を踏まえ、東書の『世界史探究』と実教の『世界史探究』は、いずれも「イスラーム」と記しています。また、聖典は「クルアーン(コーラン)」と記しています。「クルアーン」は、アラビア語の発音により近い表記ですから、2社の教科書は適切です。
◆一方、山川『詳説世界史』は立ち遅れています。『詳説世界史』には、旧課程版と同じく「イスラーム教」と記されているのです。聖典の表記は、「コーラン」から「コーラン(クルアーン)」へと、若干改善されましたが。
◆『岩波 イスラーム辞典』は21年前に出版された辞典です。山川『詳説世界史』が、今年度から使用されている新課程の教科書でもなお、「イスラーム教」という表記を墨守しているのはなぜなのでしょうか? 学問的な理由があるとは思えません。
◆なお、実教の教科書は、『クルアーン』について「650年ごろにアラビア語で書物の形にまとめた」と明記しています。世界史の教科書には、このような記述が不可欠です(残念ながら山川と東書にはありません)。ただ「教科書の検討2」で述べたように、『新約聖書』については言語と成立年代が記されておらず、統一性を欠いてしまいました。