世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」教科書の検討5【実教のすぐれている点と問題点】

 

◆実教の2冊の教科書(「詳述歴史総合」、「歴史総合」)はすぐれていると思います。特に「歴史を学ぶための基礎知識」のページや「さくいん」を人物と事項に分けていること(「歴史総合」)などは、高校1年生のレディネスを踏まえています。

 

◆また2冊とも、自由民権期の「五日市憲法草案」やアジア太平洋戦争の「戦争責任」についてきちんと記述していて、すばらしいと思いました。「詳述歴史総合」には、アジア太平洋戦争という呼び方について解説があり、ていねいです[*]。

 

[*]東書の「詳解歴史総合」にも、同じようにていねいな解説があります。山川の「現代の歴史総合」は太平洋戦争という名称を使いながら、短い注で「近年はアジア・太平洋戦争とも呼ばれる」と記しています。山川の「歴史総合」は従来通り太平洋戦争という名称を使い、注はありません。

 

◆ただ、気になる点もありました。いくつかあげてみます。

 

 ① 特集ページやコラムの多さ

 ② 外国人から見た明治日本

 ③ 安重根金子文子

 

<①について>

 

◆特集ページやコラムの多さは実教だけではありませんが(史料と問いかけが非常に多いのは山川の「現代の歴史総合」です)、実教もかなり多いと思います。大事な内容や興味深い内容もちりばめられているのですが、実際の授業での取り上げ方は難しいと思います。山川の「現代の歴史総合」にも言えますが、どのような授業を想定して教科書を作成しているのでしょうか? 授業を担当する教員には、かなりの力量が求められるでしょう。また、高校1年の生徒たちが本文と特集ページ・コラムを総合的に理解するのは大変だと思います。

 

<②について>

 

◆2冊ともイザベラ・バードの『日本奥地紀行』を取り上げていました。できれば、イザベラ・バードヴィクトリア朝時代のレディ・トラベラーたちの一人であることを伝えてほしかったと思います。「外国人から見た日本」は大切な視点だとは思いますが、ともすると「江戸期の美風が明治期に失われた」というステロタイプ化した見方に掉さすことになりかねませんので、慎重さが必要だと思います。

 

◆「歴史総合」のモースの取り上げ方には、驚かされました。執筆者は、「英国ははじめて日本を注目の価値ありと認め同盟をむすんだ。まるで鉱夫仲間の道徳である!」というモースの文章を引用した後、「(モースは)ならず者のような国家の仲間入りをした日本に危惧を感じている」と記していました。

 

◆二つの大きな問題があります。一つ目は、モースの「まるで鉱夫仲間の道徳である!」という文章です。「鉱夫」に対するきわめて差別的な言辞ですが、何の注釈もありませんでした(「鉱夫」がいなければ産業革命はなかったでしょうに)。生徒たちに間違ったメッセージが届いてしまうのではないかと思います。

 

◆二つ目は、「ならず者のような国家の仲間入り」という点です。日本への警告だったことはわかりますが、モースの母国アメリカも「ならず者のような国家の仲間入り」をしていたこと(帝国主義化していたこと)が、まったく忘れられています。

 

◆歴史は総合的にとらえられなければなりません。史料の選び方や引用のし方・解説のし方には、注意深さが必要だと感じました。

 

<③について>

 

◆「詳述歴史総合」は「安重根の東洋平和論」を取り上げていました。また「歴史総合」は「朝鮮人の友・金子文子」を紹介していました。どちらも、執筆者の意図がストレートに出ています。行き過ぎでしょう。高校1年生向けの教科書であえて取り上げる必要があるとは思えませんでした。