世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★スーザンの投票強行から150年余り、ハリスは扉を開けるか?

★少し遅かったと思いますが、民主党のバイデンが大統領の選挙戦から撤退することを表明しました。撤退表明の後も、トランプは「バイデンは史上最低の大統領」と繰り返しています。マナーを知らないトランプに、労いの言葉を期待するのは無理でしょうが。

 

★後継候補は副大統領のカマラ・ハリスになりそうです。先日も書きましたが、副大統領候補が誰になるのかも注目です。

 

【スーザンの投票強行(1872)】

 

 聞き慣れない出来事だと思いますが、次の文章をお読みください。

 

 「スーザン・B・アンソニー(1820~1906)は、1872年の大統領選挙の際、まだ女性には参政権が与えられていなかったにもかかわらず、勝手に投票するという抗議行動に出、以後の女性参政権運動の中心人物となっていった。そして、20世紀初頭の様々な改革運動とも連動する形で女性参政権運動は発展し、ついに1920年憲法修正第19条により女性参政権が認められた。」

  【鈴木透『実験国家アメリカの履歴書 第2版』(慶應義塾大学出版会、2016)】

 

★スーザン・B・アンソニーのような女性がいたからこそ、アメリカの<1920年>があり、<現在>があるのだと思います。

 

【ハリスはアメリカ史上初の女性大統領となるか?】

 

★カマラ・ハリスは、新たな歴史をつくる役割を担うことになりました。ハリスが民主党の党大会(8/19~22)で正式候補となり、もし当選すれば、アメリカ史上初の女性・黒人大統領(人種による区分から脱皮するためには「カリブ・インド系」というような言い方のほうがいいように思いますが)となります。

 

★「実績のない副大統領」と言われてきたハリスですが、白人男性や若者たちの支持を集めることができるでしょうか? 9月にはテレビ討論が予定されています。移民や中絶の問題で、また経済問題や外交問題で、落ち着いてトランプを論破し、フレッシュな存在感を示すことができるでしょうか? そして11月、激戦州をも制し、かつてヒラリー・クリントンの前にたちふさがった重い扉を開けるでしょうか?

 

【「分断とカオスの4年間」か?】

 

共和党の正式候補となったトランプとその陣営は、相変わらず嘘をまき散らし、口汚くハリスを攻撃するだろうと思います。恐ろしいことですが、選挙に勝つためなら、偽情報を流すロシアとさえ、陰で連携するでしょう。女性蔑視や人種差別の発言も飛び出す可能性があります。それでも支持者たちの熱狂は続き、再選されたトランプによる「分断とカオスの4年間」がやってくるかも知れません。

 

★輸入品に高い関税をかけたり、地球温暖化を否定しEVを敵視したりするような経済政策は、うまくいかないと思います。一部の富裕層を除き、多くの人びとが、トランプがもたらす「偉大」ではない現実に、翻弄されることになるでしょう。アメリカ人としての誇りは、親トランプ・反トランプを問わず、少なからぬ人びとのなかで不安に侵食され、憎しみと暴力に転化するかも知れません。

 

★トランプが当選すれば、国際社会も「分断とカオス」がいっそう進むでしょう。国連をはじめ、国際機関へのアメリカの関与は弱まるでしょう。イスラエルによるガザ地区の破壊と多数の犠牲者のことなどは気にもかけないでしょうし、ウクライナには停戦の見返りにロシアへの領土割譲を迫るでしょう。トランプやプーチン習近平に習おうとする権威主義的政治家は、大手を振って国際社会をのし歩くことになると思います。そして日本に対しては、防衛費のさらなる増額と台湾や南シナ海へのさらなる軍事的関与を要求するでしょう。

 

★トランプ支持者の気持ちをまったく理解できないわけではありませんが、「トランプ再選」に希望を見出すのは難しいです。

 

連邦議会選挙は】

 

 ハリスが重い扉を開けることに成功したとしても、内外に困難な道のりが待っているのは間違いありません(ただその困難は、アメリカの困難というだけでなく、世界が直面している困難です)。山積する課題に対処するためには、大統領選挙と同時に行われる上下両院の選挙(下院は全議席改選、上院は1/3の議席を改選)が、きわめて重要になると思います。