世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼バラから考え、歴史に学び…[バラ紹介文のジェンダー・バイアス]

 

◆歴史を学びながら庭でバラを育てていると、バラの歴史や花の美しさについて考えるようになりました。

 

◆バラについての本・雑誌・サイトを見ることも多いのですが、気になる表現に出会いましたので、書いておきます。

 

◆気になる表現を3つあげます。

 

 ① 新品種エクリュ(作出は木村卓功)の紹介文。

  「生成りのブラウスの少女、そんなナチュラルなイメージをバラに置き換えた。」

(木村卓功、「NHK趣味の園芸」2023年5月号)

 

 ② 品種ローズ・ブラッシュ(作出はフランスのアンドレ・エヴ)の紹介文

  「清楚で純粋な恥じらいが感じられる」(「バラの家」のサイト)

 

 ③ 品種アジュール(作出は河本麻記子)の紹介文

  「繊細で細い線の、女性らしいバラです。」(「はなはなショップ」のサイト)

 

◆これらの紹介文は、何気なく読んでしまうような、一般受けする表現だとは思いますが、それだけに、無意識のジェンダー・バイアス(社会的・文化的に形成された「女らしさ」・「男らしさ」に基づく偏った見方)が、よく表れています。「旧態依然の古い女性観」です。ステロタイプ化した「男の勝手なイメージ(あるいは願望)」で書かれたと言ってもいいかも知れません。格闘技や硬式野球でプレーする女性が増えたり、LGBTについて議論が交わされたりしている時代の文章とは思えません。

 

◆紹介文①・②は、「バラ=女性」という見方を大前提にしています。はたして、それでいいのでしょうか? 確かに女性名のバラは多いのですが、男性の名まえがついたバラもたくさんあります。たとえば、ウィリアム・シェークスピアレオナルド・ダ・ヴィンチノヴァーリスポール・セザンヌ、ザ・マッカトニー・ローズなどです。シャルル・ドゴールのように、政治家を記念したバラさえあります。

 

◆河本純子という育種家が、ヘブン・シリーズという数種類のバラを作出しています。ガブリエル、ミカエルなど、天使の名まえがついています。私の家の庭に河本純子作出のミカエルがありますが(赤いバラです)、女性とも男性とも思ったことはありません。中世のヨーロッパでは、天使の性をめぐり、神学者たちの間で論争がありました。結局、男性でも女性でもないという結論になったそうです。天使は性別を超えているという賢明な結論でした。バラも、性別を超えていると思います。

 

◆バラの美しさも、多様な花の多様な美しさも、「女性性」から離れた、新たな視点で表現されるべき時代に入っているのではないでしょうか。なお、「Plantia」でバラの新しい品種の紹介を続けている玉置一裕は、ジェンダーに自覚的だと思います。彼の文章にはジェンダー・バイアスを感じたことはありません。