【 追記 2021/7/27 】
<不祥事が続く中での開会式>
◆コロナ禍でのオリンピック・パラリンピック開催は、「困難に立ち向かう強さ」なのでしょうか? それとも、「悲惨な状況に突っ込んでいく愚かさ」なのでしょうか?
◆東京都に緊急事態宣言が出される中[*1]、昨夜、東京オリンピックの開会式が国立競技場で行われました。
◆アスリートの人たちには敬意を抱いています。競技場に入ってくる各国選手団の姿を見ていると、「コロナに苦しみながら練習してきたアスリートたちが世界中から集まってきたんだ」という気持ちにはなりました。
◆「聖火」の最終ランナーは大坂なおみでした。「多様性」の代表として選ばれたのでしょう。(前にも述べましたが、オリンピアの遺跡で太陽光から採火されたオリンピック・フレイムあるいはオリンピック・トーチが「聖火(聖なる火)」と訳され、それが日本に定着したのはたいへん不思議なことです。[*2])
◆しかし、日本の組織委員会の人権感覚はひどいものでした。森前会長の女性差別発言、開会式の企画に関わった人たちの女性タレントの容姿侮辱、障害者いじめ、ユダヤ人大量虐殺の揶揄など、驚くようなことが次々と起きました。日本社会の深刻な実態が露わになったということだと思います。
◆天皇陛下の開会宣言
「私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します。」[*3]
[*1]7/11に出されました。8/22までの予定です。菅首相は、緊急事態宣言発出を決めた時、「これで感染拡大は収まる」と言ったそうです。状況の総合的な理解力が欠如していることに驚かされます。なお、沖縄県は緊急事態宣言が5/23から継続しています。
[*2]「聖火」という訳語が日本で定着した理由は、いくつか考えられます(まったくの私見ですが)。
① 意識の深層に、古来の太陽信仰があった。
② ヨーロッパ文化への憧れ(もしくはコンプレックス)があった。
③ 古代ギリシアに範をとりながら、「聖化された身体(活動)」が世界中に広まった。
※「聖化された身体(活動)」については、不十分なものですが、前回の記事<「祭典」の魔力>をご覧ください。
[*3]今まで「祝う」と訳してきた celebrating をあえて「記念する」と訳したのだそうです。パンデミック下のオリンピック開催への、天皇の「懸念」が反映された結果でした。「象徴」としての天皇のあり方が、あらためて議論されるでしょう。
<感染急拡大の中の強行開催>
◆新型コロナの感染状況は次の通りです(7/22現在)。
●世界では
感染者 約1億9200万人
死者 約413万人
※東南アジアをはじめ世界中で感染が拡大しています。
※世界の感染者は、8月には2億人を超えるでしょう。
●日本でも感染が急拡大しています。
7/22の新規感染者 5,397人 (東京都の新規感染者は1,979人)
死者 1万5108人
※3週間前(7/3)と比べると、感染拡大は歴然としています。
7/3の新規感染者 1,881人 (東京都の新規感染者は 716人)
◆今月末には、東京都の1日当たりの新規感染者は 2,000人を超え、全国の新規感染者は1日当たり7,000人に及ぶかも知れません[*4]。
◆8月にはさらに「爆発的な感染拡大」が起き、日本各地で、医療の逼迫など悲惨な事態が生じる可能性があります。
◆選手や大会関係者・メディア関係者の感染も毎日報じられています。今後、ますます増えていくでしょう。
[*4]【追記 7/27 】
東京都の7/27の新規感染者は 2,848 人になりました(過去最多です)。まもなく 3,000 人台になるでしょう。8月上旬には 4,000 人台になるかも知れません。
埼玉県、神奈川県、千葉県、大阪府、沖縄県でも、新規感染者が急増しています。
全国の7/27の新規感染者は、 7,629 人に達しました。7月中に1万人を超えるのではないでしょうか。
<遅れたワクチン接種>
◆日本はワクチン後進国(自前でワクチンを開発できず輸入に頼っている国)です。接種開始が遅れ、日本で2回のワクチン接種を終えた人は、現在のところまだ 20 %余りです。64歳以下の人々の接種率は 2.3 %に過ぎません。
◆64歳以下の人たちに、デルタ株が猛威をふるっているのは当然でしょう。
◆このような状況にもかかわらず、政府・組織委員会はオリンピックの強行開催に踏み切ったのです。
<気候危機の中の開催>
◆屋外競技の選手たちにとって、日本の近年の夏は過酷すぎます。
◆また医療現場は、コロナ感染と熱中症の両方に対応しなければなりません。
◆本来は、10月~11月の開催を主張して、開催都市に立候補すべきだったと思います。もちろん、IOCのスポーツ興行師たちは、首を縦に振らなかったでしょうが。
◆7/3には、豪雨のため熱海市で大規模な土石流が発生し、たくさんの人々・家々が呑み込まれました。一方、ドイツや中国でも大規模な洪水が起きました。今回のオリンピックは、気候危機の中で行われているオリンピックでもあります。
<虚妄の「復興五輪」>
◆東日本大震災・福島第一原発事故(2011)は続いています。
◆福島県の避難者は、7月現在、まだ3万7000人余りに上っています。
◆福島第一原発の廃炉作業は困難を極めています。IOCのバッハ会長は広島を訪れましたが(平和祈念公園の近くでは「バッハは広島を利用するな」というプラカードを掲げたデモも行われました)、福島第一原発の無残な姿と汚染水のタンクの群れを見るべきだったでしょう。
◆「復興五輪」などという言葉は、ほとんどの人々の意識から消えています。
<「熱狂」の中で、「祭」の後で>
◆オリンピック・パラリンピックでは、たくさんのドラマが生まれることでしょう。「聖化された身体(活動)」は「精神としての身体」[*5]でもあるため、アスリートたちの栄光や挫折が、さまざまに報道されるでしょう。
◆しかし同時に、どうしようもないことですが、「〇〇、金メダル!」という報道の陰で、感染していくたくさんの人々がおり、死んでいく人々がいます。何という矛盾でしょう。「聖化された身体(活動)」が華々しく報じられる中で、「ウイルスに侵された身体(活動)」に苦闘する人々がいるのです。
◆日本には、どんな8月・9月が待っているのでしょうか? もし、今まで経験したことのないような「爆発的感染拡大」が起きれば、日本の社会が受けるダメージははかり知れないでしょう。
[*5]かつて、哲学者の市川浩が使用した言葉です。