世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★中国共産党100年、そして来年は清朝滅亡から110年

 

◆現在イギリスで行われているG7サミットの陰の主役は中国だと言われています。現在の中国を、そして近現代の中国をどう捉えるべきなのでしょうか。

 

◆来月(2021年7月)には、中国共産党創建100周年の記念行事が華々しく行われようとしています。多分そのために(祝賀への欧米の抵抗感を少し和らげるために)、昨日、香港の民主化運動指導者・周庭(アグネス・チョウ)さんをいったん出所させたのでしょう。

 

中国共産党の歴史的役割は重要ですが、当然のことながら、中国共産党だけが歴史をつくってきたわけではありません。たとえば、年代からも明らかなように、中国共産党清朝滅亡(1912年)には関わっていません。清朝を倒したのは、孫文らの辛亥革命でした。でも、今年10月の辛亥革命勃発110周年は、中国では祝われないでしょう。台湾では祝賀行事が行われるでしょうか?

 

◆来年2月の清朝滅亡(宣統帝退位)110周年は、きわめて重要です。1644年以来中国に君臨してきた清朝が、その最後を迎えたのでした。清朝滅亡後は混乱が続きましたが、孫文辛亥革命はもっと高く評価されるべきだと考えています。

 

◆ただ、清朝は姿を変えながら復活していると思われます。中国共産党独裁下の現在の中国は、「中華帝国」化している点で、また領土意識の点で、むしろ清朝の後継だと言っていいでしょう。清朝の時代、次のような出来事がありました。

 

  1683年  台湾を制圧し直轄領とした

  1720年  チベットを制圧し藩部とした

  1759年  制圧した西方一帯を藩部とし新疆と名づけた

    ※藩部は一応自治を認めた支配地域です。

 

◆現在政治的焦点となっている台湾・チベット新疆ウイグル自治区は、いずれも清朝の時に領土となりました。中国共産党からすれば、「かつて直轄領だった台湾が半ば独立しているのは許せない」ということだと思います。清朝の領土意識は、そのまま中国共産党に受け継がれているのです。また、中国共産党言論弾圧民主化運動弾圧は、清朝の「文字の獄・禁書令」を彷彿とさせるものです[**]。

 

◆ある意味では、宣統帝(溥儀)はラストエンペラーではなかったのでしょう。現在の中国は、「人民共和国」と名のりながら、実質は毛沢東を初代「皇帝」とする「中国共産党帝国」だと言っていいと思います[*]。そして、習近平は自らを毛沢東と並ぶ「皇帝」に位置づけようとしています。7月の祝賀行事は、そのために最大限利用されるでしょう。

 

◆しかし、「中華人民共和国」は建国100周年(2049年)まで続くでしょうか? アキレス腱は少子高齢化です。 

 

2020年代末以降、中国社会の少子高齢化はきわめて深刻になります。GDP世界第2位の大国とは言っても(経済規模としては2020年代アメリカに迫るかも知れませんが)、3億人から4億人の高齢者を養うのは非常に大変です。膨大な福祉予算が必要になるでしょう。高齢者福祉が行き届かなければ、格差が拡大し、社会は動揺するでしょう。財政破綻を防ぐためにも「一帯一路」が構想されたのだと思いますが、「一帯一路」にもやや陰りが見られます。露骨な「帝国化」に、諸外国もようやく気づいてきています。

 

孫文は、1925年、「革命いまだ成らず」という言葉を残して死去しました。孫文三民主義のうち、「民権」も「民生」も、「中華人民共和国」では実現していません。「民権」が実現しないまま、高齢社会の「民生」を維持できなければ、中国共産党支配も揺らぐことになるでしょう。歴史もまた「諸行無常」ですから。

 

◆「諸行無常」という語を、ポジティブに考えることもできます。中国の長い歴史を振り返ると、建国100周年(2049年)を迎える前に新たな「革命」が起こり、「中華人民共和国」が崩壊するということも、あり得ないことではありません。

 

◆「民生」の安定のためには、どうしても「民権」が欠かせません。21世紀半ばには、周庭さんをはじめ中国の人びとが自由を享受していますように。

 

[*]文化大革命(1966~76)を総括して、中国史家の天児慧は次のように述べていました。

 

  『(文化大革命は)皮肉にも毛が希求した「大同世界」でもなければ、そのために試みた「人々の魂に触れる革命」とも無縁であった。巨大な「皇帝的軍事独裁の国家社会」が出現したのである。』(天児慧『巨龍の胎動』講談社、2004)

 

 毛沢東路線は鄧小平らによって否定されましたが、現在、鄧小平の存在は後景に退きつつあります。今また、経済発展を基盤に、習近平中心の『巨大な「皇帝的軍事独裁の国家社会」』が目指されているのだと思います。

 

[**]【追記 2021/6/25】

 昨日、香港の「言論の自由」の象徴だった「リンゴ日報」が最終号となりました。中国政府は、創業者や編集トップを逮捕し、会社の資産も凍結して、廃刊に追い込んだのです。