世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

▼終わらないメルトダウン <東日本大震災から10年>

 

▼今日は、東日本大震災福島第一原発事故(2011.3.11)から丸10年にあたります。

 

▼人びとの心にも、街にも、野山にも、産業にも、癒えない傷が残っています。岩手県宮城県福島県を中心に、22,242人の命が奪われました。「震災関連死」とされる方々は福島県が最も多く、2,313人です。故郷を追われ、過酷な避難生活を送るうちに亡くなったのです。地震津波による死者1,614人・行方不明者196人の合計を上回っています。

 

▼今はたくさんの報道がありますが、まもなくコロナやオリンピックや選挙の話題にかき消されていくでしょう。原発事故について、ごく基本的なことだけ書きとどめておきたいと思います。忘れないように。

 

▼10年前、巨大地震と巨大津波からまもなく、東京電力福島第一原子力発電所の1号機・2号機・3号機の全核燃料がメルトダウン炉心溶融)しました。1号機・3号機・4号機では爆発も起こりました。チェルノブイリ原発事故(1986年)と並ぶ、きわめて深刻な事故となりました。

 

 

【深刻な事態は続いている①(融け落ちた核燃料)】

 

デブリ(融け落ちた核燃料)は、880トンに上ると言われています。

 

●困難な作業が続いていて、デブリの状態さえはっきり分かっていません。作業員の人たちが奮闘していますが、デブリの取り出しのめどは、まったくたっていません。

 

●再び巨大地震・巨大津波が起きれば、デブリに何らかの異常が発生して、また放射能汚染が広がる可能性もあります。風向きによっては、茨城県から首都圏にまで甚大な被害が及んでしまうでしょう。

 

●また、デブリを取り出すことができたとしても、それをどこに、どのように保管するのでしょうか? 汚染された廃材も同様です。

 

●「廃炉まで40年」と言われていましたが、これから50年、あるいはそれ以上かかるかも知れません。現在の子どもたちにまで、廃炉という課題が重くのしかかってしまうのです。

 

【深刻な事態は続いている②(汚染水)】

 

デブリを冷却するために使い続けている水は、捨てるところがありません。トリチウムなどの放射性物質が残っている汚染水として、原発周辺に設置された大きなタンクに保管されています。タンクは1,000基以上になり、汚染水は計1,300トンになろうとしています。

 

●政府は、汚染水を薄めて海洋に放出する方針ですが、漁業関係者を中心に反対が続いています。

 

【深刻な事態は続いている③(除染土)】

 

●除染作業により、はぎとられた土や草木は膨大な量になっています。東京ドーム11個分だそうです。それらは、第一原発が立地する大熊町双葉町に、「中間貯蔵」と称して保管されています。環境省が以前の居住者から買い上げた(泣く泣く売った人たちがほとんどです)広大な土地に、黒い袋に入れられて並んでいます。まるで黒い墓石のように。

 

●政府は「一時的な保管場所」と言っていますが、本当でしょうか? 2045年3月までに「福島県外で最終処分する」というのですが、汚染土を引き受けてくれる都道府県はあるでしょうか?

 

 

▼政府や東京電力は、その場しのぎの対策しかしてこなかったように見えます。先月6日に震度6強の地震がありました。第一原発で気になったことが2つありました。しかし、大きくは報道されませんでした。

 

 <1> メルトダウンしている1号機の冷却水の水位が1メートル下がった。

 <2> 3号機の地震計が故障していて、震度が計測できなかった。

 

 もう少し強い地震だったら、<1>はたいへんなことになったかも知れません。

 故障を知りながら地震計の修理をしていなかった<2>の事実には、呆れてしまいます。これが、東京電力の実態なのです。

 

▼次のようなことが、予定されています。

 

 ① オリンピックの聖火リレーが、第一原発に近いサッカー施設・Jヴィレッジからスタートする。

 ② 第一原発の近くに「国際教育研究拠点」を整備する。

 

 残念ながら、日本の政治はごまかしに長けた人たちによって行われています。日本人は案外騙されやすいので(原発の安全でも、太平洋戦争でも)、「福島も復興しているんだ」と思ってしまう人たちもいるでしょう。しかし、①や②によって、福島第一原発の厳しい現状を覆い隠すことはできません。

 

▼なお福島第一原発は、東京電力原子力発電所でした。東北電力の施設ではありません。この当たり前の事実は、しかし、非常に重いものです。「日本の病」を象徴していると思います。

 

▼考えたくない歴史や見たくない現実はありますが、Web上の発言のように削除することはできません。日本は、2発の原子爆弾の被害と原子力発電所の重大事故の被害の両方を受けた国となりました。

 

▼あまりにいろいろなことが続くものですから、私たちも鈍感になっているかも知れませんが、今の日本の政治の腐敗はかなりのものです。「誠実」や「真実」や「希望」という言葉は、政治と最もかけ離れたものとなってしまいました。

 

▼そして、今後も巨大地震や巨大津波は起こるでしょう。「気候危機」(「変動」という語はごまかしの一つです)の進行によって、猛烈な台風や高潮が列島を襲うかも知れません。それでも政府は、「脱炭素」、「カーボン・ニュートラル」などと語りながら、原子力発電に頼ろうとしているのです。