世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★米大統領選の混乱と思想家コンスタンの言葉

※最終更新 2020.11.6 

 

◆11月3日に投票が行われたアメリカ大統領選挙の結果は、まだ判明していません。バイデンが勝利に近づいているように見えますが、トランプはあらゆる手段でバイデンの当選を阻もうとしています。複数の州で訴訟を起こしていますので、決着が長引く可能性もあると言われています。

 

◆トランプは、混乱と暴力を望んでいるかのようです。投票の不正や開票作業の中止を訴え、一部の地域ではトランプ支持者が開票所に押しかけたりしています。トランプ派の武装グループも「待機」しているでしょう。バイデン支持者は「すべての票を数えよ」と全米各地でデモを行っています。万一支持者同士の衝突が起きれば、混乱はさらに深まってしまいます。

 

◆予想された混乱とはいえ、不正を言い立てながら不正を行おうとしているトランプの姿は異様です。アメリカ大統領自身が、アメリカの民主主義を壊そうとしているのです。混乱が長引けば、内政も外交も停滞してしまいます。共和党にも、良識ある人たちはまだ残っているでしょう。その人たちが勇気ある行動を起こすことを願っています。

 

◆一方アメリカでも、新型コロナウイルスの新規感染者数は、すごい勢いで増加し続けています。最新のニュースでは、1日当たりの感染者数がとうとう10万人を超えたそうです。感染対策もせずに大規模集会を開き続け、挙句の果てに開票をめぐって混乱を引き起こしている場合ではないのです。このままでは、感染対策の強化も新たな経済対策もできないまま、深刻な状況でクリスマスと新年を迎えることになるのではないでしょうか。

 

★大統領選挙の混乱をTVやPCで見ながら、思想家コンスタンのことを思い出していました。フランス革命からナポレオン支配という激動の時代を生きたバンジャマン・コンスタン(1767~1830)は、19世紀の初めに次のように述べていました。(文中の「フランス」のところには、現在のアメリカ、中国、香港、ロシア、ベラルーシ、日本など、いろいろな国・地域を当てはめて考えていただければ、と思います。)

 

☆「フランスがわれわれの前にさらす光景は、いかなる希望も打ち砕くかに思えよう。そこには勝ち誇り、あらゆる恐怖の記憶で身を固め、あらゆる罪深い理論を継承し、かつてなされたあらゆる行いが自分を正当化すると思いこみ、過去のありとある過ちと犯罪とによって力を得、人間への蔑視と理性への軽蔑を誇示する--そうした簒奪の姿がある。(中略)自己愛は何にもまして強かに生き延び、恐怖の避難所となっている卑劣な行いで成功を収める。(中略)あらゆる世代にはびこる偏見、あらゆる国に広まる不正義が新たな社会秩序の素材として搔き集められる。(中略)不名誉きわまりない文句が口から口へと飛び移るが、真実の源泉から発せられるわけもなく、そこにはひとかけらの確信も含まれない。この煩わしく無益で馬鹿げた喧噪のせいで、真理や正義には汚れなき言葉を発する余地がまったくないのだ。」

 【コンスタン『近代人の自由と古代人の自由、征服の精神と簒奪、他一篇』(堤林剣・堤林恵訳、岩波文庫、2020)より】

 

★自由と正義を求め続けたコンスタンは、次のようにも述べていました。

 

☆「暴力は束の間政府を救済するかに思えたが、没落の運命はいっそう逃れがたくなった。なんとなれば、敵をいくらか取り除いたとはいえ、暴力は彼らの抱いていた政府への憎悪を国中に蔓延させてしまったからである。

 正しくあれーー権力を委ねられた人びとに私は常に言い続けるだろう。正しくあれ、たとえ何が起ころうと。正義によって統治することができぬなら、不正義によっても長い支配は望めぬであろうから。」

 「およそ抑圧というものに対する憎悪は、時代を超えて伝えられていく。未来はこの崇高な大義を裏切らない。正義を熱愛し、弱者の護り手たることを望む人間は常に存在し続ける。自然がこの継承を望んだのだ。」

 【コンスタン、同上書より】