世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★「歴史総合」:「深い学び」は困難でしょう

  ※最終更新 11/4 

 

【新課程の「地理歴史」と共通テスト】

 

◆2024年度からの大学入学共通テストの科目が検討されています。注目していた「歴史総合」は、「日本史探究」、「世界史探究」と組み合わせて、出題科目となる方向のようです。

 

◆2022年度から実施の「歴史総合」を科目として定着・充実させるためには、大学入試にきちんと位置付けることが必要であると、本ブログでも述べてきましたので、一応よかったと思います。ただこの場合、「日本史探究」、「世界史探究」からの出題は近世までからが中心になるのでしょうか? ほんとうは国公立大学・人文社会系の二次試験に位置づけ、論述問題とディスカッションを組み合わせる内容にできれば、ベストなのですが。私立大学も積極的に入試科目として位置付けてほしいと思います。

 

◆素案では、<歴史総合、地理探究>や<地理総合、世界史探究>という組み合わせは考えられていないようですが、再考の余地があるでしょう。世界史を教えながら感じてきたのは、生徒たちの地理の知識の乏しさでした。歴史の舞台である地理に無関心のまま、人名・語句・年代を暗記しようとする生徒たちが多かったのです。教科名が「地理歴史」であるにもかかわらず、残念ながら、地理と歴史を総合的に学ぶという考え方が薄いように思われます。地政学的な観点を養うという意味からも、再考してほしいものです。

 

【楽観できない「歴史総合」】

 

◆「歴史総合」は、魅力的な科目になるでしょうか? あまり楽観はできません。「とにかく近現代史を教えなければダメだ」という論調がありましたが、そのような単純な発想では失敗すると思います。世界の諸地域・諸国の政治・経済・文化が、対立と協調を繰り返しながらグローバルにつながってきた歴史を教えるのは、そう簡単ではありません。「近現代をトータルに捉える視座」が求められます。そのような視座を持たないまま授業をすれば、事件や革命や戦争の羅列になってしまうでしょう。また、近現代史の場合、歴史認識の問題は避けることができません。

 

◆どのような教科書が作成されているかわかりませんが(新指導要領の解説を読んでもイメージは湧きません)、「歴史総合」の骨格を<欧米資本主義発達史+日本の近代化賛美・戦後復興賛美>にしようとする考え方が一部にあったようですので、心配しています。近現代は、民主主義の進展や人権保障の拡大の歴史でありましたし、他方では大量殺戮の歴史でもありました。「歴史総合」は、過去を直視し、未来を展望する科目であってほしいと思います。

 

◆教育課程における「歴史総合」の位置づけにも、不安があります。「世界史探究」や「日本史探究」の基礎科目的な位置づけになっていますので、1年次で履修することが多くなるでしょう。「歴史総合」を学ぶのは、高校に入学したばかりの生徒たちになります。標準の2単位で、近現代史をグローバルに教えるのは、かなり大変だと思います。考える授業を展開するためには、前提となる知識も欠かせませんが、生徒たちのレディネスは十分ではないでしょう。もし、調べたり発表したりする学習を取り入れる場合は、教科書の内容をすべてカバーすることは難しくなります。

 

◆現状の位置づけのまま、「歴史総合」で、新指導要領の「主体的・対話的で深い学び」、特に「深い学び」を実現するのは、きわめて困難だと思います。高校の現実(ヴァラエティに富んでいます)を踏まえず、文部科学省が「主体的・対話的で深い学び」を声高に求めれば、高校の地歴科教員は疲弊してしまうでしょう。現実には、「知識・理解を中心にしながら、考える視点を提示する対話的授業」をつくっていくほかないと思います。

 

【「歴史総合」を真に生かすために】

 

◆せっかく新しい科目を導入したのですから、文部科学省は発想を大きく変えてほしかったと思います。数年前、本ブログにも書いたのですが、「歴史総合」を「世界史探究」や「日本史探究」と同等の位置づけにするべきでした。具体的には、概略次のように考えてきました。今となっては、実現は難しいでしょうけれど。

 

  ●「歴史総合」を高校地理歴史科の総仕上げの科目として位置付け、3年次の必修とする。(「地理総合」は1年次の必修。)

 

 ●文系の場合は、<調べ、考え、討議し、レポートを書き、発表する>ことを中心にした歴史科目とする。 

 

 ●そのため、文系の場合、<「世界史(探究)」・「日本史(探究)」・「地理(探究)」から1科目を選択して学んだ後(あるいは学びながら)、まさに総合科目として「歴史総合」(3単位)を学ぶ>という科目編成にする。

 

 ●「歴史総合」の教科書は複数の<テーマ史>を中心にした内容とし、「世界史(探究)」・「日本史(探究)」の近現代史部分、「地理探究」の世界地誌との相互関連を重視する。

 

 ●そのうえで、先に述べたように国公立大学・人文社会系の二次試験に「歴史総合」(論述問題+ディスカッション)を課し、大学教育との接続を図る。

 

 ● 理系の場合は2単位とする。<テーマ史>の中の科学技術史にも重点をおき、大学教育との接続を図る。

 

◆このような考え方を取らない限り、「歴史総合」の「主体的・対話的で深い学び」は机上の空論に終わると思います。3年次必修という位置づけは、18歳選挙権を踏まえた主権者教育にも役立つことでしょう。

 

★2022年度の実施まで、1年半を切りました。各社の教科書の編集は、ほぼ終わっていると思います(来年度は各高校で教科書を採択することになります)。「近現代をトータルに捉える視座」を持った教科書になっているでしょうか? 教科書の内容によっては、近現代史の教育をめぐって、また議論が巻き起こる可能性もあります。

 

★各社の教科書を比較検討できるようになった時点で、もう一度「歴史総合」のあり方を考えたいと思っています。