世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

★ブティジェッジ氏から考えるマルタの歴史

 

アメリカの大統領選挙の候補者選びが始まっています。民主党では、サンダース氏とともにブティジェッジ氏が注目されています。

 

◆Buttigieg の発音と日本語表記について、「朝日新聞」にたいへん興味深い記事が載っていました。ブティジェッジ氏の父親は、地中海のマルタ出身だというのです。

 『オックスフォード英国人名辞典によると、(ブティジェッジという)名字は1千年ほど前、イスラム教徒がマルタ島などを支配した時代に生まれた「アラビア語シチリア方言」で、「養鶏業」を意味する言葉に由来する。』

 

◆そこで、マルタ共和国(人口は約40万人)の歴史を調べてみました。

  前8世紀   カルタゴフェニキア人が移住

  前3世紀   ポエニ戦争中、ローマの支配下

  5世紀    東ローマ(ビザンツ)帝国領に

  9世紀~13世紀   イスラーム教徒の支配

  16世紀    聖ヨハネ騎士団マルタ騎士団)領に

  1798年    エジプト遠征の途次、ナポレオンが占領

  1800年    イギリスが占領

  1947年    自治政府成立

  1964年    独立

  1979年    イギリス軍撤退

  2004年    EU加盟

  2008年    ユーロ導入

 

◆おもな出来事を列挙してみただけですが、すごい歴史です。マルタ語は、アラビア語だけでなく、イタリア語・英語などの影響を強く受けています。アラビア文字表記になったことはなく、ラテン文字表記です。また、マルタの人々のほとんどはカトリック教徒だそうです。(なお、犬のマルチーズ種の原産地です。)

 

◆1989年12月には、冷戦終結を確認した会談(ブッシュ[父]とゴルバチョフ)も、マルタで行われました。

 

◆エリートと言われるブティジェッジ氏ですが、多文化のマルタの歴史の影響を少なからず受けているのではないでしょうか。

 

◆ラストベルトの中のサウスベンド市長をつとめたブティジェッジ氏が大統領になり、<アメリカ合衆国における多様性の回復>を担ってくれれば、という期待を抱いてしまいます。淡い希望かも知れませんが。

 

【参考文献】

・「ブティジェッジ氏 期待の風」(「朝日新聞」2020年2月15日付記事)

・『ニュースがわかる世界各国ハンドブック』(山川出版社、2013年)

・中野暁雄「マルタ語」(朝日ジャーナル編『世界のことば』所収[1991年、朝日新聞社])

・中野暁雄「西アラブ・マルタから見た地中海」(「言語」1998年10月号所収、大修館書店)