世界史の扉をあけると2

<世界史の扉をあけると>の続編です

◆2020センター試験・世界史Bの出題について

最後のセンター試験となりました。問題を作成する作業は大変だと思いますが、今回も、感じたことをいくつか述べたいと思います。(出題ミスについては、ここでは触れません。)

 

 絵画や写真は、相変わらず飾りのようになっていました。絵画や写真を使うのであれば、それらについての設問を作るべきでしょう。昨年の日本史Bの問題は、絵画史料などを飾りのように使うことへの批判だったと思います。

 

 本ブログは文化史を重視する考え方で書かれていますが、今回のセンター試験は文化の伝播に着目していて、良かったと思います。ただ、全体のバランスから考えると、文化史が多くなり過ぎました。また、よく検討すると、19世紀以降の文化の出題はなく(かろうじて誤文にモネの名がありました)、この点でもアンバランスが見られました。

 一方、いわゆる社会経済史は減少してしまいました。歴史は、政治史、社会経済史、国際関係史、文化史などの複合体です。第1問~第4問の各リード文は、これらを複合的に述べた、たいへん良質なものでした。出題も、もっと複合的であるべきでしょう。単に人物名・著書名を問う問題[解答番号23]などは、避けてほしいものです。

 

3 船に関連する出題はありましたが、「海域世界」という視点は不足していたようです。たとえば古代地中海世界という視点がないため、ギリシア本土だけ取り上げることになってしまいました[解答番号4、32の①]。植民市も、フェニキアも、ローマも、アレクサンドリアも、出題者の視野には入っていなかったようです。

 

 第3問のAのリード文でカリフに下線が引かれ、ファーティマ朝の成立時期が問われていました[解答番号19]。ファーティマ朝は成立直後から、アッバース朝に対抗してカリフを名乗りましたので、興味深い出題でした。ただ、イスラーム史全体から考えた場合、ファーティマ朝によるカイロ建設の時期を尋ねる問題のほうが適切だったように思います。

 

 イスラーム関係では、残念ながら、近現代のイスラーム史への視点が欠けていたと思います。東欧・ロシア・ソ連史の出題の一部を削り、近現代イスラーム史を出題することは、十分可能だったはずです。

 

 東欧・ロシア・ソ連史への大きな偏りがありました。私も授業ではこれらの地域の歴史を重視していますが、センター試験の場合、このような偏りは好ましくありません。出題者に東欧・ロシア史の専門家がいたためなのでしょうか? 偏りを防ぐチェック機能はないのでしょうか? ハンガリー史がいつも首相ナジだというのも[解答番号34]、おかしなことです。

 

 第4問のセルビアの死者数を表したグラフの問題[解答番号36]ですが、結局は年代暗記を求める出題となってしまっています。あのグラフを使った、より意味のある問題が作成できるはずです。また、後でも触れますが、第4問は「人やモノの移動」というテーマでした。なぜセルビアの死者数を表したグラフを選んだのでしょうか? テーマにふさわしい統計資料は、他にたくさんあったでしょうに。

 

 第4問で、Bのリード文の「各地を巡った日本人が多数存在した」に下線が引かれていました。しかし設問は、まったく下線部から離れたものでした[解答番号31]。「ここで世界史と日本史をクロスさせることができたのに」と、たいへん残念に思いました。私ならば、日本人のハワイ移民・ブラジル移民・満州移民などについて述べた選択肢を作成したと思います。

 

 戦後史の問題が多くなってしまいました。世界史Bという科目の性格をよく理解して、古代から現代までバランスよく出題してほしいと思います。最近は見ませんが、先史に関する出題も積極的に考えてほしいくらいです。

 出題者に「戦後史が大切だ」という強い思いがあったのかも知れません。それは理解できますが、その場合でも、ただ単に戦後史を出題すればいいというわけではないと思います。中世史や近世史・近代史の中に、現代史とのつながりを見出していくような観点こそ必要です。そのような見方の中から、良問が生まれてくるのではないでしょうか。

 

10 第4問は「人やモノの移動」というテーマでした。ここでラテンアメリカカリブ海地域やオセアニアについての出題があれば、全体として地域的なバランスがとれたと思います。しかし、Cでは、東欧史にスライドしてしまいました。しかも解答番号34は、「人の移動」とも無関係でした。

 また「人やモノの移動」というテーマにもかかわらず、モノの移動についての設問はありませんでした。解答番号7の選択肢にコーヒーを取り上げた文がありましたが、そのような視点を第4問に生かすべきでした。社会経済史と関連させた出題もできたはずです(たとえば銀、砂糖、茶など)。歴史においては、モノも、単なるモノではなく、社会的・経済的・文化的複合体なのです。

 世界史をグローバル・ヒストリーとして理解するためにも、モノの移動・伝播を重視してほしかったと思います。

 

今後の世界史教育のあり方も考えながら、疑問点を述べてきました。来年からの共通テストでは改善が進み、良問が多くなることを期待しています。